B Corpはコロナ禍でも社会性と事業性を両立

B Corpはコロナ禍でも社会性と事業性を両立

B Corp認証の運営機関であるB Lab内の研究チームがレポートを発表した。B Corp認証を受けるために必要な自己採点アセスメント・B Impact Assessment(BIA)のデータを活用し、2019〜2021年、コロナ禍における財務的パフォーマンスなどを一般企業とB Corp企業間で比較したものである。結論として、B Corp認証企業の方が売上高の成長が多く、また廃業に追い込まれる企業の数もB Corp認証企業の方が少ない、という結果が出た。株主の利益を最優先に追い求める資本主義経済システムとは別の新しい経済を求めているB Corpコミュニティが、営利企業として結果的に事業としても良い成績であることを証明したことになる。

(下記数字や引用文はレポートから示しているが、見解や見出しは必ずしもB Lab本部を代弁しているものではない)

 

B Corpの方が成長している

BIAの設問には「売上高」「最終利益」「雇用の増加」を問う質問がある(売上高と利益に関して配点は無く、赤字や売上高の伸び自体が評価されることは無い)。ここから読み解き、2019年vs2020年及び2020年vs2021年で売上高の伸びが確認された企業の数が、一般的な企業ではそれぞれ54%と61%であったのに対し、B Corp認証企業ではそれぞれ79%と84%であった。

B-Corp企業の社会性と事業性の両立-売上高

また雇用の増加に関しては割合が選択式となっているため平均値は出ないが、少なくとも25%以上増加できたB Corp認証企業が、一般的な企業よりも1.62倍高かった。

レジリエンス(不況下での生き残り)も高い

BIAの回答企業から主要マーケットであるアメリカ・イギリス・オーストラリア、加えて新興国のチリの会社をピックアップし、登記上の情報を調べ、事業が継続しているか廃業に追い込まれたかを確認すると、B Corp認証企業の方が廃業に追い込まれた企業の数が比較的少ないことがわかった。4つの市場を合計すると、一般企業サンプル238社のうち廃業した企業は29社で、事業を継続できた企業の割合が88%なのに対し、B Corp企業サンプル252社のうち廃業した企業は11社で、事業継続割合は96%と高く、B Corp企業の方がレジリエンスがあるとも言える。

B-Corp企業の社会性と事業性の両立-危機下のレジリエンス

これは既に2008年前後の世界的金融危機においても、B Corp企業は一般企業に比べて生き残った確率が63%高かったという過去のスタディと同じ結論であり、改めてB Corpの強靭さが証明されたことになる。

 

「社会性を追求する会社が儲からない」は神話か

さらにB Corpに関する論文を9本検証し、B Corp認証企業が売上高の成長など経済的パフォーマンスにおいても優れていることが確認できるかを調べた。論文に含まれる計18の指標のうち、B Corp認証企業と非認証企業を比べた時に、認証企業の方が良い結果をもたらしているものは7つ、少なくとも同等の結果が出ているものは9つあり、B Corp認証企業の方が経済的パフォーマンスが低いと評価されるものは2つしかなかった。利益のみが追求すべき目的ではない営利企業が、事業としての健全性を保ちながらより良い社会や地球環境のために活動できることを複数の研究から実証できていると言えるだろう。

  

データ元

B Corp認証企業は世界で今8000社までもう少しというところだが、自己採点アセスメントツールは実に25万社以上が利用しており、たくさんのデータがストックされている。今回の「一般企業」は認証を受けていない企業のものになるが、ここでBIAの1番初めの設問が活用されている。

BIAの1番初めの質問は点数配点がなく、調査の位置づけであることが明記されているが、企業姿勢の根本を問う重要な質問である。

B-Corp企業の社会性と事業性の両立-BIAの質問
B Impact Assessmentの画面より

(日本語訳)
□ 社会的、環境的にポジティブなインパクトを与えることは、自社にとって重要ではない
□ 自社の事業のある側面が社会や環境に与える影響について考えることはあるが、頻繁に考えることはない
□ 社会と環境への影響について頻繁に考えるが、意思決定における優先順位は高くない
□ 自社の事業の成功と収益性にとって社会的・環境的影響は重要であり、常に意思決定に取り入れている
□ 社会的・環境的影響を事業の成功の主要な尺度として扱い、それが収益性につながらない場合であっても優先させている

従来の一般的なビジネス同様に利益が重視されるか、環境や社会に与えるインパクトの方が大事か、其のレベル感で5つの選択肢に分かれている。今回の事業成長とレジリエンスを比較した調査では、「一般企業」を環境や社会へのインパクトを重視していない会社(おそらく上記1〜3番目の選択肢)として定義している。実際の認証プロセスの中で審査員が検証する前の時点では、企業は80点を取るために少し誇張して回答している傾向があるようだが、この配点の無い質問によってあえて企業の本当の姿勢を問うており、認証を受けていないが既にB Corpのような企業と普通の企業との区分けをすることが可能となっている。

一方で、BIAは自己採点アセスメントであり、アカウントは作ったものの進んでいない企業も多数あるはずで、特に非認証企業の入力情報が最新か、正しいかについての確認がある程度担保されているのかは不明だ。またBIAにアカウントを作成している時点で、その企業は何らかしらの環境・社会配慮に対する意識があると考えられる。おそらく他の論文ではBIA以外のデータを使用しているケースもあると思われるが、B Corpとは程遠い「一般企業」とのクリアな対比を示し、「事業性か?社会性か?」という二項対立の常識から確固たる説得力を以って脱却することができるかが重要である。

B Corpが目指すもの

このレポートの前段には、B Corpコミュニティのかなり熱い想いが綴られている。その一部を紹介しよう。

(以下レポートp4からの引用)

伝統的な株主資本主義が支配する世界では、利益追求が何よりも優先されることが多い。
B Corpムーブメントは、新たな道を切り開いてきた。B Corpは降って湧いた話ではなく、株主と経済的な実績の歯止めなき優位性に対抗するものだった。その意図は決して利益最大化のためのより良いモデルを作ることではなく、営利企業として財務的に健全でありながら、人々や地球といったステークホルダーに貢献することにあった。

B Corpは、通常とは一線を画している。B Corpは、私たちがこれまで見慣れてきた利益優先の企業ではない。もちろん営利企業であることは、忘れてはならない重要なポイントであるが、彼らの存在意義は、現状に挑戦し、ビジネスの成功と繁栄の尺度を再定義することにある。

経済的パフォーマンスに関しては、B Corpは異なるボトムラインを目指している。何が何でも天文学的な利益を追い求めるということではなく、財務の健全性を確保し、レジリエンスを高め、持続可能性を育むことである。繁栄とは、金銭的な利益のみを意味するのではなく、社会の幸福や環境の均衡を包括する全体的な状態として再定義することなのである。

B Corpはビジネスの力を使って、より良い社会を目指す集団である。多くの創業者は環境破壊や人権搾取をしたいと思って会社を起したわけでは無いだろう。しかし気候変動は進み、地球のあちらこちらで人権搾取や差別が話題になっている。ちょっと配慮する程度ではもう手遅れになってしまうという危機感と、様々なステークホルダーと対話を重ねていくことで互いに生きやすい経済社会が実現できるという希望とともに、強い決意をしたB Corpたちを中心により良い経済を人間が営めるか、試されている。