日本でのベネフィットコーポレーション導入検討

日本でのベネフィットコーポレーション導入検討

「新しい資本主義の実現」。

これは第100代首相として、そしてコロナ禍、気候変動についての世界会議「COP26」を目前に控えた21年秋に誕生した岸田政権の掲げる政策の一丁目一番地である。

就任演説で、それは、成長と分配の好循環と、コロナ後の新しい社会の開拓の2つによって実現するとした。特に成長は「科学技術立国の実現」、「デジタル田園都市国家構想」、「経済安全保障」、「人生100年時代の不安解消」、分配は「働く人への分配機能の強化」、「中間層の拡大」、「公的価格の見直し」、「財政の単年度主義の弊害是正」といったキーワードが並び、いくつかのテーマについては首相官邸下に会議が設置された。主題テーマである「新しい資本主義実現会議」も就任直後に立ち上がり、過去6回の会合が開かれてきた。1回目はステークホルダー資本主義に関する議論の整理、2回目に緊急提言をまとめ、3回目以降、賃金と人的資本、科学技術、アフターコロナの経済システム、非財務情報、デジタル構想といった個別トピックに続き、「民間による公的役割」の中でパブリック・ベネフィット・コーポレーションを例に、民間企業の新たな形の検討をすることも議論された。
総理の課題感として、「これまで社会的課題の解決は官が担うものとされてきたのが、社会的課題の解決と経済成長の二兎を追う起業家が増えてきている」という時代背景を鑑み、資金調達など民間を支える新たな官民連携の形として、新たな法制度の必要性の有無について検討を開始するとのことだ。この「民間による公的役割」の中には、コンセッション(所有権は公的機関のまま、開発・運営などを民間企業が担う)の加速も含まれ、社会課題に取り組む企業をどのように経済的に成長させ好循環を生み出すかという視点で議論されているようだ。その意味では、新しい企業制度ありきではなく、そうした起業家を育てる仕組みや経済的成長に向けた資金・人材循環を促すエコシステムの構築を含めた検討の必要性についても委員から提示されたようだが、日経新聞によると、今夏にも関係省庁で議論を始め、2023年以降の法整備を含めた対応が検討されるとしている。

岸田政権が「新しい資本主義」を掲げながら新鮮味がないとの批判を受けながらも、世界的の潮流から今「ステークホルダー資本主義」が議論されることは必然的ともとれるが、こうして官邸で議題に上がるほど注目を浴びているベネフィット・コーポレーション。短期的利益重視の今の資本主義経済システムでは取り残される人や課題があると、立ち上がった民間人によってアメリカに導入された制度である。もともと「三方良し」でステークホルダー資本主義・サステナブル経営が存在しているのだとも主張される日本、一方で急速な高度経済成長期を経て「失われた10年」を引きずっているかのような日本において、「ソーシャルビジネスはやっぱり儲からない」という現実を打破するための官民連携という視点で検討されており、背景が全く異なる。欧米の進め方に単に流れるだけでなく、後れをとるでもなく、しなやかな法整備議論を期待したい。