B Corpの考える、ゴール無き「気候正義」の旅

B Corpの考える、ゴール無き「気候正義」の旅

B Corp認証機関であるB Lab(Bラボ)からClimate justice(気候正義)に関するplaybook(戦略集)が発行された。その中身を見ていこう。

気候正義とは、気候変動を起因とした不平等な被害に対し、公平に責任をもって取り組もうというもの。日本であまりなじみのない言葉だが、いわゆる先進国・北半球がこれまで散々工業化を進め、経済的に豊かになった代償として世界の気候変動問題が進み、農業中心で対策に莫大な資金を投入することが難しい途上国・南半球にとって、その負担を強いられることは理にかなっていない、といった議論は1997年の京都議定書の頃にもなされていた。気候変動対策は経済成長を阻害するとも考えられ、途上国の反発を受けていた当時、そもそも気候変動そのものに懐疑的だった欧米諸国もあり、アメリカは京都議定書から離脱した。それから25年近く経った今、アメリカ発のB Corp認証を受けた企業たちはどういったアクションを起こしているのだろうか。

数字で見る気候変動における不平等

B-Corpが気候正義を考える
Climate Justice playbookより

1%:途上国の、下から50番目までの国々が世界の温室効果ガス排出量に占める割合はわずか1%にも満たない。

92%: 世界の温室効果ガス排出量の92%は、北半球の国々によって占められ、これは世界人口の19%相当でしかない。残りの8%である南半球は今、そしてこれからも気温上昇に耐えていかなければならない。

1880万:2017年、ハリケーン、地滑り、干ばつ等の自然災害によって1880万人が家を追われた。

69%:2020年に異常気象355件の69%は気候変動によってもたらされたか、悪化した。

3400万:気候変動と異常気象により3400万人が食糧不安に晒される。

20%:2050年までに気候変動により栄養不良の子どもが20%増える。

どのように進めるのか

企業が気候正義を進めるうえで、その意義や留意点についてこのplaybookでは8つの点に着目している。

①ただのチェックリストを埋めるのでなく学びと進歩の過程である
気候正義は、ゴールポスト、つまり状況によってルールやゴールそのものが変わってしまうものである。明確なゴールがあるの中で生きてきた我々には少し違ったメンタリティが必要となる。

②その過程は直線的なものではない
それぞれのコミュニティがそれぞれのやり方で取り組んでいる。不確実性や段階的な進化というものに慣れることが必要である。

➂誰もがインパクトを与えることができる
企業の大きさに関係なく、小さな努力でも大きな影響を及ぼす可能性がある。コラボレーションをすることでインパクトは何倍にも広がる。

④「聞くこと」が大事
それぞれのコミュニティにおいて何を変えたいか、どう参画したいか、いつまでにやりたいかなど、意見を聞かないことには効果的な解決は望めない。

➄身近なところから始める
「環境正義」だからと難しく考えずに、従業員、自社とつながりの深い地域やコミュニティなどから取り組んでみる。

⑥誰が、いつ、という本質的な問いをしてみる
始める前に、今がその問題に取り組むのに最適なタイミングか、タスクに必要な人員を揃えているか、過度な負荷をかけることなく遂行できそうか、コラボ先も準備ができているか、などを確認する。タイミングが、成功か失敗かの決め手にもなりうる。

⑦立場によって優先順位が変わる
気候変動により被害を受けている人々は、気候問題よりも日々どう生きていくかの方が優先順位が高いこともある。ヘルスケア、雇用、家族の生活など基本的なニーズが必要かもしれない。

⑧長く続く不平等の問題を逆転させるのは本質的なシステム改革のみである
過去頼ってきたものが不平等な社会システムを助長してきたところもある。新しい解決法を生み出すことはもちろん大事だが、過去のやり方や考え方を捨て去る必要もある。

どんな環境問題、もしくは経営問題、あらゆる問題への対処のフレームワークとして応用できる部分もあるかもしれない。どの点も当たり前のように聞こえるが、企業の実体験を基にした、現実的で、葛藤を含む、奥深いものなのではなかろうか。これまで環境・社会問題に取り組んできた人たちにも共感がもてるかもしれない。

具体例

このplaybookにはパタゴニア、ハーブティでおなじみのパッカ、自然派オムツなどを販売するSeventh Generation、マテ茶ブランドのグアヤキの気候正義に対する事例が紹介されている。順番としてはplaybookの後半に記載されているが、先に上記と照らし合わせて見てみよう。

パタゴニアにとっては、第一に気候正義への取り組みは長い旅であると述べている。気候正義に限らず、パタゴニアには環境や社会に対する企業責任について向き合い、様々なイニシアティブをとってきた長い歴史がある。まさに上記①なのである。そしてこの気候正義において紹介されているのが、アラスカの原住民、グウィッチン族の保護区を守る活動だ。この地域は、1971年に、アラスカ原住民権益措置法(Alaska Native Claim Settlement Act、ANCSA)が成立され、保護区となっていたが、天然資源開発をめぐって許可を出すのも政治家。後に説明するように、政治に関する、特に政権と反対の立場をとるのは企業の経営リスクにもなりうる大変な問題に向き合っている。

パタゴニアはB-Corpである
パタゴニアのウェブサイトより

ハーブティーでおなじみのパッカは、サプライヤーである茶葉生産農家へ気候変動に備え対策を行うため、2019年にリスク・モデリングツールを開発した。その1つの事例がインド南部にあるカルナータカ州での取り組みだ。ツールの分析によれば既に土壌浸食が発生しており、2040年までに水不足になる可能性が高い。そのため資金を集め、土壌を改善し、土中に水分を維持できるような、ジャックフルーツやシナモン、バニラ、バラなどの植物2万本近くを植えた。

pukkaはB-Corpである
Pukkaのインスタグラムより

ネイティブ・アメリカンであるイロコイ族は7世代先の子孫のことを考えて生活するそうだが、それが社名とミッションになっている、Seventh Generationは環境と人にやさしいおしりふきや洗剤などを販売している。白人が従業員の大多数を占めるこの会社にとって気候正義はなじみのない問題。そこで、上記➄にあるように、気候正義の活動家に話を聞くところから始めた。そしてそのインタビューでわかったことは、自分たちと同じようにそうした問題を知らない消費者などに対する認知を広げるべく、会社のブログにも記事を掲載した。「環境レイシズム」という言葉もあるが、パタゴニアの例にあるような原住民の居住地域の侵害や、経済格差もしくは白人中心主義により、結果的に公害の多く発生する地域に黒人が住んでいたりと、同じ国内でも人種差別と気候変動問題が切っても切り離せない問題となっている。もっと行動を起こさねば、と考えたSeventh Generationは、「気候変動問題対処のため閉店」の貼り紙を出してオフィスを閉め、デモに参加した。

seventh-generationはB-Corpである
Climate Justice playbookより

マテ茶を販売しているGuayakiは、その原料の生産地である南アメリカの熱帯雨林を保護する活動を行い、5万本近くの木を植えた。それでも満足せず、2019年には12回ものワークショップを行い、延べ150人に及ぶマテ生産者やそのコミュニティのステークホルダーたちから話を聞いた。今後それらで学んだことをベースに、森林保護に限らず食料の確保や、民族の言語や音楽、しきたりなどを保護する活動も含め、今後具体的なアクションに展開していく予定である。上記⑦にあるように、環境対策そのものだけでなく包括的に、社会的に取り残されている人たちの生活の保護も気候不平等問題解決の一つとなる。

グアヤキはB-Corpである
Guayakiのウェブサイトより

推進していくうえでの壁

さらに現実的な目線で、気候正義を推進していくうえでの壁についても8つのポイントを挙げている。

①理解不足
「気候正義」という言葉をただの用語以上に理解し、何かアクションを起こす前にそれが経営やコミュニティにどういった影響を与えるかをよく考えなければならない。

責任の不在
自社の及ぼす影響を理解し、自社の行動に責任を持たなければ真の活動とはならない。責任の自覚に欠ける要因は、大抵その会社組織の中に存在するものであり、株主第一主義や短期的思考を捨て、利害関係者全てに拠る意思決定に変え、企業行動が与える影響の精査やダイバーシティ・インクルージョンといった取り組みに時間と金を投じるなどが第一歩として必要となる。

➂ビジネス慣行や家父長的マインドセットなどの固定概念
ビジネス界においてはこれまで完璧が求められてきたが、真に学んでいく組織を作っていくために、失敗を恐れず、失敗から学ぶ体制にしていかなければならない。耳を傾けること、そして不確実性に慣れていく必要がある。気候正義の活動は様々な人たちとのコラボの中で、すんなりうまくいくものとは限らないからだ。

④多様な意見の欠如
ニュースレターや集会などでの社内広報や経営幹部の声は全て同じだと感じている人もいるかもしれないが、気候正義においては新しい、より多様な人々を代表した意見を中心部に置き、吟味されなければならない。さもなければ単一で近視眼的な意思決定を続け、イノベーションが生まれない、文化面でも金銭面でも長期的に良好な状態を保てない会社となってしまう。

➄縦割り社会
多くの組織において、環境・サステイナビリティ部門と、社会影響を考える部門は別であることが多いが、気候正義を進めるうえでは両者は相互関係にあり、文化的・オペレーション的な違いを越えなければならない。

⑥リソース不足
気候正義はだいたい利益にも直結するので、それが示せれば経営層を味方につけるのにも有効だ。そしてどんな小さなアクションでも意味があり、コラボレーションによって活動を広げることができることも忘れてはならない。

⑦モデル事例不足
気候変動や環境対策は多くの企業のCSR活動として長年取り組まれてきたが、気候正義というのはわりと新しい概念である。そのためリーダーシップの取り方やアクションについてのモデルとなる事例が少ない。

⑧ビジネスリスク
議論を巻き起こすやっかいな政治問題を避けてきた企業にとっては、同じく政治にもつながる気候変動、気候正義に取り組むのは反発のリスクもある。しかし統合的な取り組みは企業文化に深みを与え、顧客のロイヤルティ獲得につながり、リスクをはるかに超えるベネフィットを得られる。


「気候正義」は日本にとってあまり聞かれない言葉で、またビジネスモデルのような型にはまった解決策もない。しかしコミュニティ、業界内、他業界、あらゆる組織とのコラボレーションが解決を早めたり、好影響の度合いを増大させたりするはずだ。そんな意味も込めて、事例を集めて広く組織同士が連携できるように今回のplaybookが発行されたのであろう。

そしてコロナに苦戦した我々にとって、不確実性は改めて、さらに身近なものになった。不確実性を受け入れ、短期的なゴールではなく段階的な進歩を重んじ、縦割り社会から脱しコラボレーションにより事業や社会をより良くさせていくことは、気候変動問題に限らず今後世界でビジネスを展開していく多くの企業にとって求められることかもしれない。