B Corp企業にとって関心の高い気候変動問題。CO2排出量についてはアセスメントの中で企業規模問わず計測しているか、削減実績があるかを問われる。
世界経済フォーラム(WEF)とボストン・コンサルティング・グループ(BCG)との今年の共同研究結果が発表された。「Net-Zero Challenge: The supply chain opportunity」と題し、世界のサプライチェーン全体でのCO2排出状況を把握し、産業別にCO2排出削減の源がどこにあるのかを分解している。そしてその排出削減コストは最終的に顧客に課されるものは大した額ではない、というのが結論だ。さらに、これを実現するための具体的なアクションも提案。実際に行動を起こしている企業の実例も多く掲載され、「It is time to move(今が行動する時)」と前向きに訴えかけるレポートとなっている。
企業や個人が「ネット・ゼロ」(CO2削減)に取り組むにあたり、どういうところにフォーカスすべきなのか、自分の行動が本当に排出を減らすのか、世界全体でどういった構造になっているのか、というマクロレベルを知りたい人には、面白い図表がいくつかある。まず世界の財・サービス輸出にかかるCO2の量をメガトン(100万トン)単位で示したものがある。当たり前だが、自国の施設をCO2フリーにするだけでなく、サプライチェーン全体で取り組まなければならない実態がよく表現されている。
また世界のCO2排出量の半分を占める8つの分野のサプライチェーンにフォーカスしている。その8つは、食糧、建設、衣料、日用消費財、電機、自動車、プロフェッショナル・サービス、そしてそれら以外の空輸だ。
レポートの付録には、それぞれの分野でどういう部分に取り組めば「ネット・ゼロ」を目指せるかを記載している。例えば、食糧は、プラスチック包装をゼロにすることでCO2削減に貢献できるが、2%に満たない。大部分は、自然に由来する部分で解決しなければならず、農地開拓による森林破壊は防止の余地があるものの、それ以外は農業そのもののプロセスの中で解決策は無く、農地開拓してきた土地に対し森林や土壌の再生といったアプローチが必要となる。一方で衣料において大半は、その製造過程において使用するエネルギーがCO2排出の要因となっているため、再生可能エネルギーを取り入れることが課題である。
そして最終的にこうした対策を講じた場合に消費者に係る負担は少ないとしている。車なら約6万、服は約100円、食料品も約100円、家は約60万、スマホなど電子機器は約400円と、それぞれそれぞれ現在の購入価格の4%以下の価格アップですむことになる。
昨今はこうした「ネット・ゼロ」に伴うコストは軽微であるという認識が多い。昨年9月には、経済成長と気候変動緩和にフォーカスしたシンクタンク、エネルギー移行委員会(ETC)が、ネット・ゼロの実現に必要な投資は世界のGDPの0.5%程度であると発表。またコンサル会社・マッキンゼーのレポートでも、日本における脱炭素化の投資額が同じくGDPの0.5%であると算出している。
これが企業の実務者にとってピンとくる数字であるかどうかは別として、消費財で考えれば、サステイナブル=大量消費からの脱却により、より環境に良いものだけを買うようなマインドセットが、1つ1つの値上がりを吸収して、結果的に家計支出の合計が変わらないという状態が好ましいであろう。
最後に企業が具体的にとるべきアクションとして、特にCEOがリードすべき9つの項目を挙げている。
1.バリューチェーン全体でのCO2排出量を、サプライヤー巻き込んで把握し、ベースラインを作る
2.スコープ1~3において目標を決め、公言もする
3.サステイナブルな商品に再設計する
4.サステイナブルなバリューチェーン・調達戦略を立てる
5.サプライヤー選定基準にCO2排出基準も織り込み、数値をトラッキングする
6.サプライヤーと一緒に排出削減を考える
7.業界全体の取り組みに参画する
8.業界を超えて、需要側の声を大にしていく
9.目標設定や組織編成において低炭素化ガバナンスを図る
「言うは易し」なところもあるが、CEOなどへのインタビューを元に悩みになるべく突っ込んだ対策や事例を織り込もうとしていることが伺える。
上流のCO2削減に対する悩み
まずはバリューチェーン全体における二酸化炭素排出量を把握することに始まるが、この辺りは環境省もたくさんの算出事例やツールを掲載している。
またサプライヤーとの協業は、時には国境を越えハードルの高いものだが、世界経済フォーラムでは、「ミッション・ポッシブル・プラットホーム」といったイニシアティブを作り、「ネット・ゼロ」を真剣に取り組む企業が集まり声を大きくすることによってサプライヤーサイドを変えていこうとしている。企業だけでなく専門家も入り、経済的にもwin-winなソリューションを模索している。
紹介されている事例としては、
・デンマークのビール会社・カールスバーグの全サプライヤーチェーンにわたる取り組み (サステイナビリティ・レポート2019参照)
・製薬会社メルクのプラスチック使用率ほぼ半減など再設計実施(ウェブサイト参照、様々な数値が詳細にエクセルでもダウンロードできる)
・アップル、中国に再生可能エネルギー投資
・ロンドン金属取引所(LME)によるサステイナビリティ情報開示促進
・ドイツの総合化学メーカーBASFの気候変動に対応した農業を支援する商品開発
などである。大企業を取り上げ、リーディングカンパニーは既に行動を起こしている、他の企業も今すぐ取り掛かるべきだ、と締めくくっている。
日本にも素晴らしい活動をしている企業は多いと思われるが、今後も推進しやすいようなビジネス環境へと、どんどん加速していくことが期待される。