気候変動問題は今や世界で喫緊の課題として扱われるようになっている。今年はCOP26の開催も控え、環境問題に対する政府や企業の動きは加速しているともいえるだろう。欧米各国での動きを受けて、日本でも2020年10月26日、国会にて菅首相が「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことが宣言された(経産省まとめ:国内外の動き)。石油メジャーも相次いでネットゼロなどの目標を発表している(JPECまとめ)。
B CorpのコミュニティではCOP25の段階で「ネットゼロ・2030」のイニシアティブを発動しており、各国が2050年までのネットゼロを目指す中、20年前倒しで2030年までのカーボンニュートラルを目指し、900社以上が署名し、実現に向けてベストプラクティス等の共有を積極的に行っている。
B Corpコミュニティの中でも、グローバルに事業展開するパタゴニアとオールバーズ。気候変動を含め、全ての側面において良い会社となるべく様々な取り組みを行う先駆的企業は、何を目的に、どこを目指しているのだろうか。B Corp認証機関であるB Lab(Bラボ)本部が行ったインタビュー記事を紹介しよう。
(以下、記事より)
パタゴニアとオールバーズは、B Corpであり、ベネフィット・コーポレーションでもあり、ステークホルダーを中心に置いていますが、その構造は、気候変動や人種差別といった昨今の社会的課題に取り組む際にどのように機能しますか?
パタゴニアCEO・ゲラート氏:会社を創業した紳士は今でも会社のオーナーなので、パタゴニアの価値観というのはかなり深く組織に根付いています。ベネフィット・コーポレーションになり、B Corpコミュニティの一員になる。これによって、いろんなところが改善されました。 BIAを使い、このコミュニティに参加することで、社会問題やより広く考えなければならない私たちの責任について多面的に見ることができたのです。
いくつかの分野においては、私たちは長くそれに取り組み、深く考えてきたと感じますが、それほどでもないものもあります。人種正義については、昨年私たちはまだまだと感じていました。それは私自身にとっても、会社にとっても、会社の文化としてもだと思います。(パタゴニアは人種差別について今後もっと力を入れて取り組んでいくことを宣言。)私たちが問題について考え、声をあげ、社外での行われている議論に参加するためには、まず内面を深く見つめ、社会での発言権を得る必要があると思います。
オールバーズCEO・ズウィリンガー氏:私はそれにとても共感します。そしてその謙虚な姿勢がいいですね。私たちも同じように、事業を立ち上げ、最初のBIAを行ったとき、その辺の地元の食料品店からグローバルな消費財販売会社まで適用する万能な基準であるという点で、実は少しうんざりしていました。しかし、あらゆる種類の企業を網羅しようとした結果として、BIAはすべての側面においてより良くなることを強制します。それがプラスの影響を与えてきました。
そしてそれが導いてくれたのは、ステークホルダーガバナンスのすべての側面を考える戦略、つまり環境問題に限らず様々な利害関係者を大切にする、私たちの本当にコアの部分で、私たちが宣言している「公共便益」となるあらゆる観点を持つものです。これを推進するための要素の1つとしては、私たちが一企業として生み出す外部性を理解し、それに対しお金を払ったりコストをカバーしたり、あるいは私たちがあらゆる手段により投資で返すのを確実なものにすることではないかと私は思います。これは私たちが一企業として非常に大事にしていることであり、これに対し責任を持つために社内で様々なプロセスを確立しようとしました。
ゲラート氏:それは本当に励みになります。特に民間企業においては、サステイナビリティといった問題などで、時々立ち往生してしまうものです。事実、私たちは48年かかって、未だサステイナブルな企業ではありません。あるとすれば、私たちは責任感をもって、自分たちの与える影響についてはっきりと目を向け、サプライチェーンや他の場所で起こっている大きな問題に取り組むのみならず、業界やそれを超えて解決策を拡張させオープンソースにしていくことについて本当に深くコミットしています。それでもなお、非常に多くの課題が残っていて、1つの問題解決や挑戦の報奨は、より大きな問題や挑戦への招待状なんだなと、私はよく思います。これは私たちの旅でもあるのです。
それぞれの会社では、気候変動、ステークホルダー・ガバナンス、ベネフィット・コーポレーションを取り巻く問題について政策提言をする役割を活かしつつどのように前進させようと考えていますか?
ズウィリンガー氏:法律制定は、私たちが取り組んできたことの1つです。例えば、主要な業界団体であるFootwear Distributor Retailers of America(FDRA)に対し、私たちは最近、団体のメンバー全社が二酸化炭素価格制度について提唱し、それを私たちの上流工程に対し、材料や製品の二酸化炭素負荷度に基づいて平等に課すという声明を採用するよう働きかけました。これは団体を通じた素晴らしい動きになります。
業界団体を活用することで一社だけのロビー活動ではないと認識できます。ターゲットやウォルマート(米小売の大手)、ナイキ、アディダス、そしてメンバーすべての企業が実際に二酸化炭素政策について声明を出すというのは非常に強力なものです。
オールバーズは自主的に炭素税を導入しており、一企業として気候変動に与える影響をサプライチェーン全体で測定します。私たちは二酸化炭素の排出を測定し、ゼロにしようとしていますが、それができるまでカーボンオフセット分を支払います。これにより、損益計算書にコストとしてカウントされ、それを補っていく必要があります。社内で導入した他のメカニズムとともに、これが排出ゼロを実現するための動機となっているのです。
ゲラート氏:それはすばらしいですね。私たちも同じようなことをやっていて、他にもしばらく取り組んできたことがあります。私たちは、特定の製品ごとに環境への影響度を理解することのできる、環境損益計算書というツールを開発しました。
気候危機に対処するタイムリミットは差し迫っており、包括的に、且つ根本要因にフォーカスする必要があります。そして私たちにとって、包括的にというのは、コアビジネスとサプライチェーンを活用することです。それは私たちの声を反映しています。それは私たちの資源を使っています。それは私たちのコミュニティと協力しています。多くの企業が1つの目標を宣言し、業界団体を通じて直接的にもしくは間接的に他の多くの活動に従事していると思いますが、それがオールバーズのやったことだと思います。
お二人とも、気候変動問題に対処するための時間が差し迫っているとおっしゃいました。では、不平等や資源枯渇といった問題を未解決にしたまま表面だけ変えるということなくちゃんとやるために、どのように会社をこの長期戦に集中させますか?
ズウィリンガー氏:まず、ある種の楽観主義を共有したいのですが、気候変動との闘いから生まれるビジネスチャンスと経済的オポチュニティはとてつもなく大きいです。なぜかみんな直感に反すると思っているようですが。ミクロレベルで見れば、私たちは完璧とはほど遠く、ゴールポストは動き続けています。私たちは学び続け、今後新しい科学が登場してきます。だから私たちは、時間との闘いに耐え、ネット・ゼロを目指すだけでなく、それを超えて、地球にとってネット・プラスになるようなことをやろう、というフレームワークを作ったのです。
パタゴニアと同じように、私たちは環境再生型農業にフォーカスしています。これは、気候変動にネット・プラスの影響を与える可能性のある、バイオ由来の材料を元にしたグリーンケミストリーから作る天然繊維と天然ポリマーの開発に焦点を当てています。実際にいつか、消費者が私たちの製品を購入することで地球への配当還元をすることができるようになりたいと願っています。それがまさに私たちを動かす目標です。では、少し哲学的なところから具体的な戦術に落とし込むにはどうしたらよいでしょうか。
まず、すべてを測定します。それから、私たちは責任感を持ち、すべての顧客との接点において、すべての製品に二酸化炭素負荷のラベルを付けます。私たちはこれを、気候変動と戦っているのか貢献しているのかを示すスコアカードとして、シンプルで唯一の指標に統合しようと考えています。そして、多くの人がこのツールを採用してほしいと思います。
次に、これらすべてについて取締役会に報告します。これに関してはきちんとしたガバナンスを実施しています。
そして、この汚染に対し費用を払います。 つまりカーボンオフセットをしています。二酸化炭素排出量のより少ない素材にすることでコストが増える場合、そのトレードオフは二酸化炭素の社会的コストとして捉え、最高峰の文献を参照して、50ドル/MTCO2eで換算するという内部ルールもあります。
さらにこの結果次第で報酬を決定します。取締役以上の報酬は変動制で、毎年報酬の20%は二酸化炭素排出削減目標を達成しているかどうかに基づいて支払われます。
ゲラート氏:農業、指標、循環性などへの野望と、多くの共通点があります。正しいと思うことに決定を下し、その結果がどうであれ受け入れるというのが私たちの方針です。 ある意味では残念なことなのですが、これはますます、私たちの声によって必要だと思ったところに人々を集め、より直接的に関与するようになってきています。長い間関わってきた活動家たちとその活動を支援することから、私たち自身がより直接的に活動に従事するようになるということです。
しかし私たちの野望は、100年後、健康な顧客たちが住む、生き生きとした地球で事業を行うことです。それがゴールであり、意思決定の枠組みでもあります。 社内で注力していることの1つは、顧客がパタゴニアと関わりを持つための様々な手段を築くことです。それは商品の修理であったり、まだ使えるけどもう着ない商品を買い取り、より手頃な価格で再販することであったり(Worn Wear)、レンタルも今後の可能性として出てくると思います。私たちがこれまでに作ってきたすべての商品に責任を負っているからです。 最終的には、顧客との間に同じことを一緒に達成しようとしている関係があり、それを私たちの方で可能にさせたいという、大きな考えを持っています。
ズウィリンガー氏:私はスウィートフォームを誇りに思っています。これは、サトウキビの加工過程の中で生まれる廃棄物からカーボンネガティブな材料を生成すべくブラジルの会社と共同で開発したものです。私たちはそれをオープンソース化させました。私たちにとってもみんなにとっても価格低減の実利があり、また多くのブランドがそれを採用すれば気候変動との闘いに大きなインパクトを与えられます。100以上のブランドがサンプルを作り、数十のブランドがサプライチェーンで展開し始めています。これはかなりすごいことです。
ゲラート氏:そうですね、それは本当に重要なことです。 既に完璧に解説してくれましたが、つまり正しいからやるというのと、ビジネスにも役立つからと認識してやるという2つの側面があるということです。 6、7年の多大な時間とエネルギーと資金を使い、天然ゴム素材であるYulexで作られた、ネオプレンを使用しない初のウェットスーツを開発し、発売と同時にそのサプライチェーンをオープンソース化しました。それも同じモチベーションです。 第一に、それがウェットスーツを作るためのより良い方法だったからと、第二に、その技術を採用するブランドが増えるほど、遍在化し、価格も安くなるからです。 だから何か大きな問題に取り組むことに、自己利益の要素があることに何ら問題はありません。
私たちのゴールは、いくつか正しいことをすることだけではありません。社内で収益性の高い事業を構築することが大事です。それが規模を拡大する唯一の方法であるからです。こういう話をすると、「20分の無料のエンターテイメントをありがとうございました。でもそれは私たちには適用できません。」と言われてしまいます。使い捨て製品として扱われることが多いものとの関わり方を変えることで、こうしたことが本当に有益なビジネスになりうるというのを証明することが、私たちの責任の一つであると思います。
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二酸化炭素排出量をトラッキングし、コストを計上し、改善の取り組みをオープンソース化するなど、気候変動の取り組みにおいて「ソーシャルグッド」な企業でありながら、それが企業が利益を生み出すために必要なことであると認識している。ただボランタリーに活動を行うのではなく、ビジネスの一環として取り組んでいくことが、民間企業の役割であろう。
「SDGsに取り組んで、何円の利益になるの?」という疑問が日本企業の中では聞かれるようだが、SDGsと本業は別ものではないし、SDGsが慈善事業にお金が消えていく、利益を減らすものでもないし、「やさしい会社」というブランドイメージを持っておくことだけのものでもない。それがビジネスチャンスであると捉えられれば、もっと動きが加速するのではないだろうか。