B Corp企業にとって関心の高い気候変動問題。特にCO2は業種に関わらず計測しているかどうか、目標を持って削減の実績があるかどうかもアセスメントの中で問われる。
2020年12月19日、気候変動に関する取り組みなどをモニターするフランスの独立行政機関、HCC(気候高等評議会)は、5Gが二酸化炭素の排出量を増加させるとのレポートを出した。これにより、環境負荷について解明しない限り、5Gの展開を先延ばしすべきではないか、という声も上がっている。
5Gの展開については様々な理由で待ったがかけられている。スイスは人体への影響についての懸念から5Gの使用停止を命じたと報道された。また、英政府はセキュリティの懸念からファーウェイを排除した展開ロードマップを発表している。先日のナッシュビルにおける爆破事件の犯人が「5G陰謀論者」であったとする報道もあり、なかなか夢物語だけでは終わらない。
もちろん5Gそのものの否定というわけではなく、それが与える影響についての対処をきちんと検討したうえで展開すべきだという慎重論があるということである。そして同じ欧州内でもスマートシティやイノベーションの文脈で5Gの導入に非常に積極的な国もある。日本国内では4月から商業利用が開始されたが、地方創生やスーパーシティの発展に向けて5Gの活用、そして早くも6Gに向けたロードマップを世界に先駆けて発表するなど、様々な社会課題を促進する革新的技術として導入に積極的だ。
では改めてCO2の観点から5Gの評価を見ていきたい。
5GはCO2を削減する
例えばイギリスの通信会社O2のまとめたレポート(2020年8月)によると、5Gとそれに関連する、スマートグリッドや自動運転などのコネクティッド技術を活用した場合、2035年までに最大269メガトンの二酸化炭素削減になり、これは2018年のイギリスの排出量280メガトンに迫る値である。
レポートによると削減二酸化炭素量Low、Medium、Highの3シナリオを交通、家庭電気、工場、医療のセクター別に見ている。
一番大きいのは、家庭における電気を「スマート○○」を活用した場合だ。スマートグリッド、スマートヒーティング、スマートメーター、スマートEVチャージ。とにかくその時ベストな電力消費で無駄を一切排除する「スマート」なシステムによってかなりが削減できると見込んでいる。
交通においては、既にコロナ禍で在宅ワークが普及しているが、高速ネットワークにより在宅勤務で通勤時のCO2が減らせる計算だ。
工場については実際のボッシュのケースを参照している。工場内でいち早く5Gネットワークを導入し、生産の初めから最後までモニターし、効率的な品質管理やリモート・メンテナンスを行うことにより結果的に20%程光熱費が浮いた。
医療は、そもそも先進国においてCO2排出量全体の4%にしかならない。今回算出の削減量も全体の2%にしかならないが、コネクティッド救急車、バーチャル診療、リモートモニタリングなどにより貢献すると見ている。e-ヘルス、特にfitbitのようなウェアラブルによる健康モニタリング等で病院に担ぎ込まれる人数そのものを減らすことができ、リバプールでの実証実験である程度の結果を得ているようだ。
同じく通信業界大手エリクソンも、オンライン・アクティビティにおけるCO2インパクトがそう悪くないのだという主張をしている(2020年2月)。
上記は各デバイスでの電力使用量を比較したものだが、例えば1年間の冷蔵庫の電力消費量はノートパソコンで2時間の映画を400本見るのに値する、スマホに至っては2900本相当。電気ケトルで1回お湯を沸かすエネルギーは、スマホでネットサーフィンを8時間するのと同じエネルギー。つまりネットをしても周りの家電製品と比べれば大して電気を消費していないのだ、という主張だ。
5GはCO2を増加させる
一方、先のフランスのレポートでは、こうしたプラスの側面を一切計算に加えておらず、5G導入にかかるアクセスポイント建設や5Gを利用するための機器生産に係る二酸化炭素の増分のみを見ている。5Gの恩恵による効果を正確に算出することができないからという理由だ。確かに5G拡大を目論む通信会社のレポートには実証実験の結果を踏まえているとはいえ楽観的だったり、計算から除外している二酸化炭素排出があったりするであろう。
HCCによると、デジタル技術分野におけるフランスのCO2排出量は現在年間1500万トンで、これはフランス全体の排出量の2%に過ぎないが、5Gによって2030年までに年間270万~670万トン増加すると算出した。現在の年間排出量から比べたら4割を超える量だが、それは金銭でいう初期投資のようなものだろうか。
ライフサイクルで捉える5G
私企業が、そして国境を越えてデータをなんでもかんでも傍受してしまうのではないかという情報セキュリティ・安全保障に対する懸念を根底に、環境や人体への影響を危惧するレポートが出る一方で、情報通信企業はキラキラとした未来構想を描くこの構図に深入りしなければ、なかなか真実を語れないが、5GがCO2を削減するか、増加させるかはいわば企業と個人の行動にかかっているとは言えるだろう。
5Gを利用するために必要なデバイスの生産、つまり消費者による「買い替え」が起こるのは必須であり、その環境負荷が高いというフランスの今回のレポートは一理ある。エリクソンの上記の比較もライフサイクル全体で比較したものではなく使用中の電力に注目したまでだ。もっとも、比較している冷蔵庫や自動車の方がそうした負荷が大きいであろうが、絶対値で見たときのパソコンやスマホの生産や廃棄に係る環境負荷も自覚する必要がある。
高速の通信の恩恵を受けて様々な領域で効率化していくことは必要なことであるし、また最新スペックの機器は企業の努力により環境負荷軽減も進歩していくであろう。バランスを取りながら「サステイナブル・デベロップメント」していくことが、人類に課せられている。