「B Corpを強く勧めます」byアル・ゴア氏

「B Corpを強く勧めます」byアル・ゴア氏

イギリス学士院主催のオンラインイベントの中でアル・ゴア氏がB Corpを称賛した。

アル・ゴア氏はクリントン政権時代の副大統領。引退後は環境活動家としても活躍していて、日本でも「不都合な真実」になじみがある。2004年にはゴールドマンサックスのアセット・マネジメント会社社長であったデービッド・ブラッド氏と共にGeneration Investment Managementという投資会社をロンドン拠点に共同設立、会長としての顔も持っている。サステイナブル経済をリードするテクノロジーやソリューションを提供する企業を中心に投資やアドバイザリー業務などを行っており、2015年にはB Corp認証も取得している。


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Generation Investment Managementのウェブサイトより


2021年2月初め、3日間にわたって、コリン・メイヤー教授が中心となって社会における企業の目的や役割を研究する「Future of the Corporation」というプログラムのサミットがオンラインで開かれた。

アル・ゴア氏が登場したのは、初日最初のプログラム「Why we need Government leadership to promote purposeful business(なぜ目的ある企業を推進するために政府のリーダーシップが必要か)」である。他にパネリストには元世銀副総裁のアルンマ・オテ氏や経済学の名門大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス学長のネマト・シャフィーク氏が参加した。


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目的ある企業(Purposeful business)の考え方、イギリス学士院ウェブサイトより

PioneerPostの記事によれば、B Corpの話が出てきたのはある質問に対する答えの中であった。企業というものが、「焼き付いた」社会的目的を持つ協同組合やコミュニティなどといった形態に取って代わられる可能性があるか、という問いだった。

ゴア氏は、企業が成長し、より大きな資本にアクセスするためには、企業というモデルが必要だったが、B Corpにより、目的との統合がはるかに容易になったと答えた。ここでB Corpを強く勧める発言が出たのであろう。



一方シャフィーク氏は、協同組合や従業員が所有する事業などのスキームは長い歴史があり、非常によく機能していたが、規模が大きくなることはほとんどなかったと述べた。ある調査では大企業の方が効率的且つ生産的であると示されているようだが、 とかくビジネスの組織形態を規定することにはあまり興味がなく、公正で効率的であり、社会的目的を持つあらゆる組織形態を生み出す一連のルール設計に関心があると語った。そういった意味ではB Corp認証機関であるB Lab(Bラボ)の、大企業・中小企業・ファミリービジネス・NPOとあらゆる形態の企業がB Corp認証を取得し「良いことのために力を使う」という1つの目的に沿うスキームは好例であろう。


ゴア氏はまた、政府や企業がサステイナビリティ、特に環境問題についての取り組みについては目に見える変化を感じており、政府も野心的な目標を約束していることに触れた。
「政府は、民間部門と協力して、適切な政策に基づき、我々に必要な新たな投資を行うことができます。ESGを焦点にした投資家や企業は、企業目標を達成できないリスクがあると言われていましたが、その議論は覆され、今やサステナビリティを目指さなかった企業が、企業目標達成を逃す可能性が高いです。
世界的なサステイナビリティ革命は、史上最大の投資機会です。大胆に早くからコミットした企業は、経済的・環境的に大きな利益を得るチャンスがあります。多くの企業が、サステイナビリティ革命によるとてつもなく大きなチャンスに気づき始めています。」
データによると長期的に見れば、グリーン投資の方が一貫して良いリターンをもたらすそうだ。

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ゴア氏の会社のポートフォーリオの価値推移、Fintelのウェブサイトより

オテ氏は石油・ガス会社でさえエネルギー転換に真剣に取り組んでいることを挙げた。「写真」と同義語とまでなったコダック社が、デジカメの登場によって衰退してしまった「コダック現象」と同じように、波に乗れない企業はもはや衰退してしまうのではないかという意見だ。


シャフィーク氏は、特に株主や消費者の圧力にさらされている企業においては、その企業のリーダーシップに頼るだけでは不十分で、政府の関与の必要性を述べた。環境問題や社会的問題に取り組むのはもはやボランティアの領域を超えているからだ。例えば最低限の年金や育児有給休暇など従業員のベネフィットを税金で保証し、企業には高税をかけるといった強制的な措置が挙げられた。

日本では既に社会保障により守られている部分もあるが、環境や社会問題が「ボランティア」でなくなってきているところは多くの企業にとっても実感があるのではないだろうか。いわゆる日本で行われていた「CSR」として会社の付随的な良い活動を超えて、「ネット・ゼロ」への具体的なロードマップが多方面から求められている。一方で大きなサプライチェーンの中でビジネス展開をする企業にとって、産業や国の枠組みを超えたリーダーシップを誰かが取る必要がある。

B Corpの兄弟分、ベネフィット・コーポレーションは、企業があらゆるステークホルダーを考慮して意思決定するのを法律によって守られることを意図して設定されたものであり、資本主義社会システムを変えるためにうまく政府の力も使いダイナミックな変革を目指した。ベネフィット・コーポレーションという企業形態やB Corp認証は、企業内の経営層や従業員にとっても、投資家や消費者など外部の人間にとっても、この企業がサステイナブルな目的をもって推進している企業なのだと、わかりやすく認識できるものなのである。