マネジメント教育強化を目的に活動するEFMD(European Foundation for Management Development)の情報誌に、オーダンシア大学の副学長であるソブザック氏が、ビジネススクールはもっと「B」な概念に沿えるはずだ、という記事を書いている。
オーダンシア大学は、トップ1%に入るほど評価の高いフランスのビジネススクールだが、加えて企業の社会的責任についての教育に力を入れており、国連の「責任ある経営教育原則(PRME)」にも力を入れているそうだ(ジャパンタイムズ・ビジネススクール紹介サイトより)。
このPRME、Principles for Responsible Management Educationは、国連のグローバル・コンパクトの中から生まれたイニシアティブで、2007年に誕生している。国連のグローバル・コンパクトで、企業の社会的責任ある行動を促すのであれば、そこに人材を輩出するビジネススクールなどもそういったことを教えるべきだ、という考えのもと、①原則②価値➂方法④研究➄パートナーシップ⑥対話の6つの原則で構成されている。具体的には
①企業や社会において、またインクルーシブで持続可能な世界経済で働いていくために、サステイナブルな価値を生み出す人材を育成することを目的とし、
それを実行するために②大学の活動やカリキュラムなどをグローバル・コンパクトをはじめとした価値基準に合わせたり、➂効果的に学べるフレームワークや教材などを創出し、④サステイナブルな社会・環境・経済に関して研究活動をし、➄経営者たちとコラボレーションして理解を深めたり探求しながら⑥あらゆるステークホルダーたちとの対話を促進していく、というものである。この制定の裏話を、2007年に行われた慶應義塾大学の梅津教授による講演の記録文で知ることができる。
この原則の制定年からもわかるように、企業が社会的責任について真剣に考えるのであれば、学校側もそれに合わせて学生を教育すべきだという議論は新しい話ではない。必然的に日本の大学ゼミやMBAスクールでも企業の社会的責任、ESGやSDGsに関する分野の研究をしているところが多数あるはずだ。しかしそれはケーススタディとしての研究で、ビジネス理論そのものに組まれるものではないであろう。
冒頭に紹介したソブザック氏によると、PRMEに参画しているオーダンシア大学をはじめとして、ビジネススクールに、CSRに関するコースやプログラム、論文やカンファレンスも増えてきたが、一方でそういったイニシアティブはまだまだ「あるといいもの」として捉えられている側面があるという。そしてソブザック氏が企業の経営者層と議論をする中で、企業の方がはるかに社会的・環境的問題意識が進んでいるし、ビジネススクールに対し、より包括的でサステイナブルな経済におけるリーダーを輩出できるように教育課程を改変するよう求められているそうだ。ビジネスの実務者と大学関係者の集うPRMEの会議の中でもそうした発言があったにもかかわらず、学長のほとんどはそうしたシフトに消極的姿勢を示した。今の学校ランキングが、卒業生の年収によって決まるところもあり、NGOやB Corp(だいたいは小規模なので)で働く学生が増えるとランクが下がって困るというのが実態のようだ。
社会で求められているのにビジネススクールが変われないというのはおかしい。ソブザック氏はB Corp/ベネフィット・コーポレーションに倣って、「ベネフィット・スクール」を作ろうと提唱している。その時の学長たちによって左右されてしまわないように法的形態として「ベネフィット・スクール」になり、アセスメントを行う。旧来のやり方で算出されるランキング順位がどうなろうと、結果的には優秀な教員と学生を惹きつけることができ、B Corpと共同で研究がしやすくなったり、そうした学校同士で連携することもできるだろうという主張だ。
ここで法的形態が出てくるが、オーダンシア大学のあるフランスでも、B Labがもともとアメリカのいくつかの州で実現させた、「ベネフィット・コーポレーション」(「株式会社」や「合同会社」といった法人格の1つ)と同様の、「Entreprise à Mission」が2019年に制定されている。2020年6月にダノンが上場企業として初めて採用した。社会に対して、株主に対して、堂々と社会や環境に対する活動第一で経営していくことを宣言したのだ。
B Schools(ビジネススクールの総称)が、新しい意味のB=benefitの意味を持つようになる日は近いかもしれない。