パタゴニアがB Corpのレベルを引き上げる

パタゴニアがB Corpのレベルを引き上げる

2022年9月15日、「パタゴニアの創業者が全株をNPOに寄付した」と、日本メディアの見出しを賑わせ、もちろん世界中の多くの著名人が賞賛した。「寄付した」というのは慈善的な響きがあるが、創業者シュイナード氏曰く「私たちの故郷である地球を救うために」環境危機への取り組みを加速させるべく取った決断が、その株を環境NPOが、いやもはや「地球」が保有することにより、地球を救う正しい意思決定ができるようになるというものだ。「地球が私たちの唯一の株主」と題したパタゴニアのステートメントの文字が誇らしげでさえある。正しい意志決定をするために譲渡した先が、なぜNPOだったのか。その全貌はNew York Times(日本では東洋経済)が説明している。

これを受け、B Corp認証創設者3名が共にステートメントを出した。シュイナード氏の考えは、B Corpムーブメントの原動力になったものと同じだという。

そもそもB Corpの概念を生み出すきっかけとなったのは、利益の100%をチャリティに寄付しているNewman’s Ownという食品会社であった。アメリカの俳優であったポール・ニューマンが設立し、なるべく添加物を使用しないソースや飲料などを販売し、その利益は全て子どもたちのために使われる。ロゴには「Let’s give it all away(すべてあげよう)」と記されている。富めるものが果たす役割は何かに対する答えの1つだった。そしてB Corp認証第1号はUntoursというツアー企画会社で、同じように利益100%を慈善事業に投じていた。株主はUntour財団というNPOが所有している。B Corp認証自体は、慈善的側面だけでなく、社会や環境パフォーマンス全般に関する厳格な基準と、利益追求と目的追求とのバランスを加えたものと昇華することとなった。

創設者のステートメントでは、このように述べている。

「真のリーダーにとって、B Corp認証の取得は常に出発点であり、最終目標ではない。B Corpムーブメントの精神は継続的な改善である。全てのB Corpはビジネスを成長させ再認証を受けるために、毎年ポジティブなインパクトを拡大していけるよう努力している。」

3年に一度の再認証プロセスに入った企業からは、その準備が大変だとよく耳にする。一見その時が来れば慌ただしくなるようなイメージだが、実際は常になんとなく監視の目に追われているような感じではないかと想像する。B Corp企業群の中で優れた事例がたくさん紹介され、認知度が上がっていくにつれて、「B Corpならすごいことしているだろう」という期待の目が注がれるようになる。むしろ認知度が非常に低い日本国内において、認証企業自らが認知度を上げるために様々な情報発信をするなかで、自社を律するような気持ちにもなっているのではないだろうか。

「パタゴニアはその歴史を通じ、何が可能かについて我々の想像力を伸ばしてきた。パタゴニアはリーダーとして、オーガニックコットンへの移行、環境フットプリントの見える化、製品寿命を延ばす循環システムの構築、草の根活動家の支援、アクティビストとしての活動リジェネラティブ農業、集団行動のためのプラットフォーム構築(1% for the Planet)、ベネフィットコーポレーションというステークホルダー・ガバナンス・システムの採用、そして今、「財力はもう十分」と言いながら真のレガシー企業を創造している。」

ステートメントではこのようにパタゴニアのリーダーシップを賞賛した上で、これからもパタゴニアがB Corp及びベネフィットコーポレーションとして、利益法人としての役割・責任あるビジネスを変わらずに追求していくことも言及している。さらに今回の決断は、公共政策にも関わるという立ち位置を示した点でも重要だと指摘している。つまり、所有権の2%が譲渡されるHoldfast Collectiveはアメリカの内国歳入法とよばれる法律の第501条C項に規定されているカテゴリーの中でも、501(c)(4)型という、政治ロビーイング活動が自由にできるNPO団体として登録されている。助成金の提供や地球環境へ投資だけでなく、理念・信念のある活動や政治的な候補者を後援することができると、パタゴニアのFAQにも記されている。B Labがベネフィット・コーポレーション法制定に向けて働きかけたことに重ねて、パタゴニアもまたその意志と共にあるということを述べているのだ。

B Corp創設者の1人であるカソイ氏はTwitterで、「パタゴニアがまたB Corpの水準を引き上げた」とコメントした。

BCorp創設者の1人であるカソイ氏はパタゴニアが基準をあげたとコメントした
カッソイ氏のTwitter投稿

創設者3名のステートメントでは今回のパタゴニアの決断とB Corpとコンセプトは同じであるとしているが、B Corp認証やBenefit Corporationという法人形態が、真の「ミッション・ロック(ミッションを守り抜く)」にはまだ足りないということを証明したとも言えるかもしれない。シュイナード氏が普通に売却することを選ばなかったのは、オーナーシップが誰かの手に渡った時に、ステークホルダーガバナンスを約束するという定款上の文言だけでは、加速し続ける地球環境危機に対応しきれないと考えたからである。

B Corp認証は「いい会社」に与えられる称号でもあり、よりよい会社やよりよい世界を導くためのリーダーでなければならないという責任を課すものでもある。