B Corp取得のためのアセスメント、BIAでは、今後企業のオーナーや経営者が変わろうと「いい会社」であり続けることを確保するために、社内規定に明文化されているかといったドキュメンテーション、更にそれを実行するための組織体制・制度になっているか、実績はどうだったのかということも問われる。同時にそのやり方については細かく規定しているわけではなく、ここに業態や分野におけるフレキシビリティを確保している。
とはいえ、テンプレートのない取り組みに対し、何をやったらいいかがわからないこともある。どうせ自由なら、自社らしい、わくわくする取り組みにすればいい。ガバナンスの項目については大企業のレポーティングで公開されている情報も多く、そうした経験のある人にとっては朝飯前かもしれない。経験が無くてもとりあえずマネしながらやってみて、改善していけばいい。世に公開されている情報を頼りに、自社で設計するためのヒントを見つけてみたい。
Social and Environmental Decision-Making
意思決定における社会及び環境配慮
How does your company integrate social and environmental performance into decision-making?
社会的・環境的パフォーマンスをどのように意思決定に組み込んでいるか
(選択肢一部抜粋)
□Employee training that includes social or environmental issues material to our company or its mission
会社や会社のミッションに関連する社会や環境の教育を従業員に向け実施
「社会」や「環境」といってもかなり幅広いので、自社がその中でもどこに取り組むのか、自社のミッション達成のために全員が知っておいて欲しいことは何か、環境&社会戦略・サステイナビリティ戦略に関するトピックは何か、といったことから内容を定めるのがまず第一歩だ。
「学び」の教材はこの時代どこにも転がっている。そして学び方も多種多様である。講座式、各自受講式、ワークショップ形式、いろんな形があるだろう。
社員向け講座のプラットフォームがなければ、すぐ作れる教材としては、Google classroomなどを活用することもできる。クイズやアンケートも作成できるので、そこでのフィードバックを集めながら一度そのテーマについて社内で議論する場を設けても良いかもしれない。
スライドで教材を作成するなら、全国地球温暖化防止センターは様々な素材集を用意、様々な社会問題を研究した電通総研などからヒントがもらえるかもしれない。
Youtubeなら、地球環境問題については国立環境研究所、SDG関連についてはSDGsジャーナル、NHKの特集、ビジネスマン向けコンテンツGlobisやNewspicksから関連する話題の専門家対談、あたりをはじめとして検索すれば、あとはGoogle先生が導いてくれるだろう。
Stakeholder Engagement
ステークホルダーエンゲージメント
Has your company done any of the following to engage stakeholders about your social and environmental performance?
社会・環境パフォーマンスについてステークホルダーを巻き込むために実施していること
(選択肢一部抜粋)
□We have a formal stakeholder engagement plan or policy that includes identification of relevant stakeholder groups
ステークホルダーエンゲージメントの計画、または主要なステークホルダーは誰かを明確にしたポリシーがある
□We have created mechanisms to identify and engage traditionally underrepresented stakeholder groups or demographics
歴史的に過少評価グループだった利害関係者を特定し巻き込むメカニズムを作成した
□We have formal and regular processes in place to gather information from stakeholders
(focus groups, surveys, community meetings, etc.)
ステークホルダーから定期的に情報を集める公式なプロセスがある
(グループインタビュー・アンケート・コミュニティ会議など)
□We publicly report on stakeholder engagement mechanisms and results
ステークホルダーエンゲージメントのメカニズムと結果についてレポートを公開している
計画やポリシーと聞くと大がかりなイメージだが、大企業の多くが採用しているレポーティング基準・GRIや、ISO26000のなかでもステークホルダーエンゲージメントについて言及している。
GRIは報告内容の原則として、ステークホルダーの包摂・サステナビリティの文脈・マテリアリティ・網羅性を挙げており、それぞれの解説の中でステークホルダーを次のように定義している。
ステークホルダーとは、合理的に考えて、報告組織の活動、製品、サービスから著しい影響を受けると思われる事業体や個人、もしくはその行動が当該組織の戦略実践や目的達成能力に影響を与えると思われる事業体や個人として定義される。これには、法律や国際協定の規定により当該組織に対して直接に正当な要求を行う権利のある事業体や個人が含まれるが、これらに限定されるものではない。(「GRI 101 : 基礎」より引用)
報告の手引きの中ではステークホルダーの具体例として、市民社会、顧客、従業員およびその他の労働者、労働組合、株主・資本提供者、サプライヤーを挙げている。だいたいどの企業もステークホルダーカテゴリーになるということだと考えられるが、自社にとっては誰か、このリストから洗い出してみるといいかもしれない。
そしてレポーティング基準となっているということは公開されている大企業の報告書に記載されているということである。いくつか自社と同業セクターを中心に覗いてみると良いかもしれない。
※好事例・ベストプラクティスを紹介したり、各企業を評価するために掲載しているものではありません。
そしてもう1つ、頭を悩ませるのが「過少評価グループ(underrepresented group)」とは何かという問題だ。これはその社会の文脈よって異なるため、BIAも設問の中でははっきりと誰かを特定しているわけではなく、後の設問の解説で、性別・民族・性的指向・年齢・障害・移民・歴史的に低収入層などを考慮して特定することを推奨している。人種のるつぼ・アメリカは一般的に女性、黒人、ヒスパニック他移民、先住民、などとイメージしやすいかもしれない。「単一民族国家」と呼ばれる日本において、あえて言うなら女性だろうか・・?という感じかもしれないが、日本にも「先住民」と呼ばれる人たちがいたり、最近は移民管理局での対処についても問題となった。「超高齢者社会」において困っている層はいないだろうか?テレビの「おねえ系タレント」でおもしろおかしく描写される時代から真のインクルージョンへの移行とは何か?「五体不満足」から本当にバリアフリーの社会は実現したか?「特定すること自体が差別ではないか」「日本で歴史的に差別を受けた層はセンシティブだ」という意見もあるかもしれないが、自社の身近で、事実をベースに、何かできることはないだろうか。
B Corpのグローバル調査でも、企業が取り組むべき課題のトップに環境問題を差し置いてダイバーシティやインクルージョンの問題が挙げられているほど世界の関心が高い。Facebook COOであるシェリル・サンドバーグ氏のベストセラーがきっかけとなり誕生したLeanIn.Orgと大手コンサルティング会社マッキンゼーが共同で毎年レポートされる報告書も、最近は女性か男性か、だけでなく女性の中でもいわゆる有色人種にも焦点を当てている。これを機に、自社にとって「過小評価グループ」は誰か、どのように巻き込み、そうした人たちの生活環境をより良い方向に進めていくかをじっくり考えてみるのも良いかもしれない。
Mission Lock
ミッション固め
Separate from a mission statement, what has your company done to legally ensure that its social or environmental performance is a part of its decision-making over time, regardless of company ownership?
ミッションステートメントとは別に、環境&社会への配慮が意思決定の一部であることを法的に示すために行ったものはどれか
□ すべてのステークホルダーへの配慮を必要とする法的形態を採用することを約束する契約書または取締役会決議書に署名した
(例:B Corp Agreementへの調印)
□ ミッションを維持するために特定の法人格やガバナンス体制を採用したが、
意思決定にかかわるすべてのステークホルダーを加味しているわけではない (例:共同組合)
□ 別会社所有(子会社)だが、意思決定にはすべてのステークホルダーが関わることを必須とするためにコーポレートガバナンス文書の書換
もしくはそのために法人格やガバナンス体制を採用している (例:ベネフィットコーポレーション)
□ 独立した会社もしくは株式公開企業として、意思決定にはすべてのステークホルダーが関わることを必須とするために
コーポレートガバナンス文書の書換を行った、もしくはそのために法人格やガバナンス体制を採用している
(例:ベネフィットコーポレーション)
「Mission Lock」とは会社のミッションを確実なものにすること、柔道の「固め技」のようなものだ。B Corp認証取得を目指すような企業は社会「パーパスドリブン」「ミッションドリブン」であり、そのパーパス(目的)やミッション(使命)がより良い社会の実現に向けられている、ということがもちろん前提であるが、これを揺るがないものにするためにいくら経営トップが「がんばります!」と宣言しても弱い。ここでは、それができなければ罰則を受けるという性悪説に基づく西欧らしい考えと言えばそうかもしれないが、法的根拠を問われている。残念ながら日本にはまだ、株式会社や合同会社のような企業形態の枠組みの1つとして「ベネフィット・コーポレーション」という法的な制定がないため、答えは自動的に選択肢の1番上(協同組合の場合2番目の可能性はある)となる。
B Corp Agreementというのは認証の最後に必ずやってくるプロセスなので、チェックしておいて良いと、B Corp認証機関であるB Lab(Bラボ)本部に確認できた。B Corp Agreementでは、将来自国にベネフィット・コーポレーション法のようなものが制定されるように努力し、また制定された暁には自社もそれに移行する、それまでは自社の意思決定にすべてのステークホルダーの影響を考慮することなどを合意する(日本企業における、B Corpになるための「法的要件」についてはこちらを参照)。
ここでは考え方の紹介にとどまり、アセスメント項目に正確に応えているか、B Lab本部に「やっています」と証拠付きで明示できるかは、それぞれの腕の見せ所であるが、わりとオープンエンドな質問であるが故、自社のできる範囲でまず一歩を踏み出せばよいのではないだろうか。
「B Corp=サステイナブルな会社って、商品の売上利益のほとんどをNPOに寄付するとか、リサイクル素材で作った商品開発をして環境にいいものを販売しているんじゃないの?」というイメージを持っていると、アセスメント項目をクリアするために意外とデスクトップ的な作業が多いことに気づく。
しかしB Corp認証が誕生した背景である、会社が将来大きくなって上場することになっても、もしくは上場企業が苦しい状況下に置かれたとしても、「いい会社」であり続けるための仕組み作りは重要である。
きっかけはアセスメントで加点を狙うため、で始めて、審査の待ち期間や取得後に更に良くなるように常に改善していくつもりで、まずやってみよう。
※上記の情報は2021年10月時点のもので、各種法律専門家・資格保持者の見解でないことにご留意ください。
またBIAの日本語訳はB Lab公式のものではありませんが、B Labが発信している情報を元に解釈し、アプローチの例を示しているものです。
各社のBIA提出において得点を保証し、減点を起因とする企業の経済・社会的損失に責任を負うものではありません