【新基準解説シリーズ⑥】職場文化

【新基準解説シリーズ⑥】職場文化

B Corp認証を運営するB Labが掲載している新基準解説シリーズ第6弾は「職場文化」。これはもともと草案では「従業員エンゲージメント」と表現されていたものである。この草案に対してのフィードバックのまとめにはエンゲージメントという言葉が漠然としすぎているという指摘が書かれていた。おそらくB Labが深掘りをし、「従業員エンゲージメント」と言う言葉が英語圏でしか明確に理解されていないということに気づき、地域や文脈を超えて通じるであろう「文化」という言葉に置き換えた。

また草案では、従業員コミュニケーションが十分になされているかと、満足度調査やエンゲージメント調査をしているかどうかの大きく2点の要件が挙げられていたが、前者は簡単すぎるということと、従業員のウェルビーイングや従業員の安全といったトピックが欠落しているという指摘があった。これもおそらくB Labが深掘りをした結果、文化に応じて異なる解釈や関連付けがあると気づき、閉鎖的で完全な定義を見つけようとするのではなく、オープンで柔軟なアプローチを意図的に選択したそうだ。

とはいえ具体的な要件としては現行のBIAでもカバーされているため、草案に対するフィードバックでもこのトピックが一番達成できそうとの声が多かった。トピックによって達成しやすさが異なることについてB Labは問題視していないようだ。一方で細かいところで注意するところもあるので多少の対応が必要になると思われる。

 

職場文化とは

B Labは職場文化を次のように表現している。

職場文化の基準は社内ステークホルダーのガバナンスを実現します。コミュニケーション、対話、測定、継続的改善に基づいた強固な基盤を企業に構築してもらいます。職場文化とは、従業員の満足感、帰属意識、共通のパーパス、心理的安全性、エンゲージメント、幸福感など、従業員の経験のさまざまな側面に影響を与える職場内の姿勢、信念、価値観を指します。前向きな職場文化は、共通の目的意識を生み出すのに役立ちます。これは、パーパスドリブンな企業の成功に不可欠です。これは、B Labコミュニティにおいて共有されている、職場でのステークホルダーガバナンスに対するビジョンの重要な要素です。

職場文化を社内のステークホルダーのガバナンスのトピックであると位置付けている。

 

新基準への対応

課題や優先順位は企業の状況によって異なるため、満足度だけでなく、心理的安全性や幸福感などの側面も取り込み、全てを計測するのではなく、2つ選択する形式になるようだ。また気候変動などのように特定の課題に関する数値を向上させるような項目ではなく、コミュニケーションや継続的改善といった実践を立証する形になる。例えば、従業員満足度調査やエンゲージメント調査の実施、従業員からのフィードバックにどのように対処したか、職場での対話を実践したか、といったもので、一部は現行基準である自己採点アセスメント・BIAにも設定されている。

企業の規模が大きくなればなるほど、より多くの例を提示する必要があるようだ。1つの例が労働組合など、労働者代表が意見することができる仕組みがあるかどうかだ。日本においては憲法が結社の自由を保障しているため、労働組合の結成自体を阻止する企業はほとんど無いと言いたいところだが、例えば外国人労働者に労働組合からの脱退を命ずるといった事例もあり、B Corp企業やB Corpを目指す企業が中心となってこうした慣行を無くす働きかけが期待されるであろう。国際労働機関ILOなどが定める基準において、労働者の労働組合に加入する権利を認めているが、全職場に労働組合が必要であるとは示されていないため、B Labも基本的に同じ考え方に則り全企業に対して労働組合の設置を義務とはしない。しかし、労働組合の結成を阻止し、別の労働者代表の仕組みを導入することについては否定し、結社の自由と団体交渉権の侵害は、B Corp認証取得資格を失うと明記されている。

現行基準においても、従業員分野は、組織の規模によっては社外のステークホルダーと取り決めをするものより合意形成を得やすく、すぐに取り組めるものが多かった。新基準も自社がリソースを割ければクリアできそうに見えるが、B Labはアクセシビリティと言語に関連するコンプライアンス基準を設けるとし、例えば障害のある方や別の言語を使用している方も会社と対話ができる状態になっているかを確認する必要がある。B Corp認証においての「従業員」の定義が、正社員に限らず業務委託契約であっても稼働時間によっては従業員として扱うことにも注意することになる。

 

従業員調査の実施の仕方

トピックには柔軟性を持たせるとしても、現状把握として従業員調査を実施しているかどうかは要件の1つとなる。調査結果を男女や年齢など属性別に分析することで課題抽出につなげるといった慣行も要件になりそうだが、特に規模の大きい企業は、性自認(男・女・それ以外)に加えてもう1つの社会的アイデンティティを選択することになる。ここにはフレキシビリティを持たせているが、故に自社にとっては何が最適かを考えることが必要だ。

ちなみにB Lab本部では自分たち自身がダイバーシティ(B Labでは「JEDI」(Justice、Equity、Diversity、Inclusion)で表現)においてベストプラクティスを表現すべく、戦略を公表している。今や3大陸に約100人の従業員を抱えるB Lab本部では、毎年「インクルージョン&エンゲージメント調査」を実施、性自認、人種/民族、性的指向、勤続年数、年齢、市民権(選挙権・被選挙権など)、障害などの要素を含めて分析しているそうだ。

 

※ 本記事はB Labの新基準解説記事を参照して書かれたものです。引用文以外は個人の解釈であり、必ずしもB Lab本部の考えを公式に代弁するものではありません。

 

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