B Corp企業の間で合言葉のように使われる言葉がある。それは、
「Use business as a force for good ビジネスの力をよりよいことに使う」
である。それはビジネスという経済活動の中で関わるステークホルダーたち、つまり顧客、従業員、その家族、取引先、その先のサプライヤー、地球環境といったアクターを通じて、そしてビジネスという原動力を生かして物事を前に進める、という意味合いだ。これは、1社単体の努力のように聞こえるが、協働という形でなければ動かないし、たくさんの人が加わらないと大きなインパクトが出ない。また自社がイニシアティブを起こすだけでなく、他者の考えに賛同し支援することもあるだろう。業界内、もしくは業界を超えて、様々なアクターたちと行動を起こすコレクティブ・アクションはこれまでの基準でもコミュニティ分野に出てきた。新基準でも1つのトピックとして重要視されているし、新基準担当者もコレクティブ・アクションをB Corpたちの「秘伝のたれ」と称している。
そして前回のドラフトからの変更点となるが、政府との関係性が追加され、政策提言などの政府への働きかけのみならず、納税の義務についても触れられている。トピック名もコレクティブ・アクションから、「Government Affairs」が冒頭に追記された。今回は政府との関係と他者との協働について、解説を見ていく。
B Corpムーブメントの重要な原動力であるコレクティブ・アクション
B Corp認証取得プロセスの最後に、「相互依存宣言」というものに署名をする。B Corpコミュニティが目指す共通のパーパスのために協働することを誓うのである。「Declaration of Interdependece(インターディペンデンス)」は、アメリカの独立宣言「Declaration of Independence(インデペンデンス)」にある種かけたものである。独立とは真逆の「Inter」=相互に、dependence=依存で、世界が成り立っていることを再認識し、コミュニティ内で知恵を出し合い、支え合い、より良い経済システムを目指していくものである。
現に有言実行するB Corp企業のイニシアティブが多々あり、例えばB Beautyは、日本企業を含め世界中のB Corp認証取得したコスメブランドが集まって、分科会で研究したり、ツールを開発して公表したり、積極的に活動している。今年は11月には、フランス・スペイン・ベネルクス三国のB Lab支部とB Corp企業によって、消費行動の見直しを呼びかけるブラックフライデーキャンペーンが行われた。
気候変動、人権の侵害、人種差別と、長年問題視されてきていたもののいよいよ本気で取り組まなければ取り返しのつかなくなる危機的状況にある今、行動を加速するために力を合わせることがより重要になってきている。
B Corpと政府との関係
現行基準では社会貢献活動として何をしているか、寄付、ボランティア、地域での活動などを問う質問に政策提言をしているかどうかが含まれる。B Corp認証を作ったときに、最終的なゴールは今ある経済システムをよりよくすることだったため、ロビーイング活動をし、B Corp認証の法制度版であるベネフィット・コーポレーションをいくつかの州で制定している。そうした設立当時の精神がアセスメントにも反映されているが、新基準では単にビジネスにとって都合の良い政策提言ではなく、様々なステークホルダーが真に求めるテーマで活動しているかも見られる。企業のロビーイング活動がB Corpの価値観とずれている場合には、そもそも認証取得をすることができない。
ちなみにB Labの定義するロビーイング活動は、直接的な政治家への接触だけでなく、政治家の意思決定に影響を与えるであろう世論への働きかけも含まれる。
またB Labは、イギリスのシンクタンク・InfluenceMapのレポートを引用しながら、国際的に合意された野心的な目標に準拠していないにも関わらず、そうした会社が政策に影響を与えていることに懸念を示している。これは特に大企業に当てはまることではあるが、InfluenceMapが今年11月に発表したレポートでは、Forbesの企業ランキング2000に選定されている約300社のうち半数以上が、「ネットゼロ」を掲げているにも関わらず、気候変動目標であるパリ協定を実質支持できていないと示している。
下記の図は縦軸に会社のホームページ上での「ネットゼロ」の登場回数、横軸はパリ協定と企業の活動の整合性の度合いを示しており、右の企業は整合性が取れているが、左の企業は整合性が取れておらず、世界の動きと同じ方向を向けていないということになる。
この図は実際にホームページにアクセスし、点の上にマウスを当てると企業名がわかる。右上、つまり自社の「ネットゼロ」を積極的に広報しているがパリ協定ともきちんと整合性が取れている企業の中の最たるポジションに位置するのはApple、またパリ協定の整合性が取れている右の領域には、ダノン やB Corpの保険テック企業Lemonadeに出資するソフトバンクもプロットされている。一方パリ協定と整合性が取れていないにも関わらず「ネットゼロ」の記述がホームページ上に多い会社として、日本製鉄やマツダなどが含まれている。今年の株主総会で、気候変動に対するロビー活動の開示が不十分と指摘されたトヨタもパリ協定の整合性が取れていない枠にプロットされている。
業界への働きかけ
現行基準においても、自社の属する業界における社会・環境基準について何かしらのイニシアティブを他社と実行したか、研究などデータ収集に協力し貢献したか、など問う質問がある。新基準ではより具体的に閾値を設け、具体的に議長やなんらかしらのリーダー職についていることや、ワーキンググループへの積極的な参加など、単にメンバーに名を連ねているだけではなく明らかな貢献が求められる。また特定の領域において業界の先駆者となり、影響を与えるようなソートリーダーシップや、メンタリングも手段として追加される。メンタリングは、金銭的な報酬を受け取らないで実施する研修や専門的知識の共有、フィードバックの提供などの活動も含まれる。
企業規模に応じた対応
B Corp取得企業は中小・零細規模が多く、集団となって社会に働きかけていくことが非常に重要であるという意識が高いように見受けられる。とはいえ、活動としてできることは限られるため、規模に合わせて要件は調整される。例えば小規模な会社であれば、いち企業へのメンタリングも十分と捉えてもらえる可能性がある。一方大企業の場合は、そのメンタリング活動が、そもそも会社としての社会や環境に対する目標を達成するための体系的なアプローチ (計画の有無や成果の特定) があり、サプライヤーなど特定のグループを指定し、戦略的に実施していることを実証する必要がある。
また政府との関わりでいうと、納税も大事な義務として重視される。これまでも売上高50億ドル(約7000億円)以上の大企業の認証要件として含まれていたが、今後は売上高3.5億ドル(約500億円)を超える、もしくは従業員数が1000人を超える企業にこの要件が適用され、納税に関しての透明性やリスクに関して開示が求められる。
B Corp界において、これもよく話題になるアフリカのことわざで、「早く行きたければ1人で行け、遠くに行きたければみんなで行け」が解説の中でも引用されている。様々な課題が喫緊の問題となっている今、企業数としては世界の大半を占める中小零細企業が多く集まるB Corpコミュニティにその力が試される。