「中小企業にとって気候変動問題に対するアクションをとることが大事で、そして気候変動問題を解決するには中小企業の参画が欠かせない」
サステイナブル・ビジネス等を中心とした研究をしている、コーネル大学の教授も務めるマーキス氏が、「ハイレベル気候行動チャンピオン」であるチリの起業家ゴンザロ・ムニョス氏へのインタビュー記事がForbesに掲載された。
「ハイレベル気候行動チャンピオン」は、2016年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP22)から設定されており、政府や民間などの気候変動対策を促進する役割を担う。ムニョス氏は2020年のチャンピオンに選ばれており、二酸化炭素排出を正味ゼロを目指すための数々のイニシアティブをとってきた。
地球温暖化によるこれ以上の悪影響を食い止めるべく、2015年パリ協定において言及された「1.5℃」。平均気温上昇を工業化以前よりも1.5℃高い水準までのものに制限する、ということだが、そのために二酸化炭素排出量を2050年までに「ネット・ゼロ」、つまり我々の活動で排出する分と自然が吸収できる分で相殺して正味ゼロを目指さなければならない(詳しくはこちらの記事参照)。もちろんそれを早く達成するに越したことはなく、2030年までにある程度の対応ができるかどうかがひとつの節目となっている。
これは政府レベルのみの取り組みでは実現に至らない。ビジネスサイドにおけるコミットメントが特に今年、そして来年のグラスゴーのCOP26においても注目されるであろう。加えて「ネット・ゼロ」の実現のためには大・中・小と企業の規模関係なく皆で取り組まなければならないのである。
ムニョス氏らはB Corpたちが、気候変動に対する責任、コミットメント、アクションを取ることがその役割を担うべき、さもなくば認証をはく奪すべきとまでと考えている。ムニョス氏らの呼びかけによって立ち上がった”ネット・ゼロ 2030“というイニシアティブには、1000近くのB Corp企業が参画した。
(以下インタビュー記事より)
マーキス氏:Net Zero 2030について教えてください。
ムニョス氏:まずは、COP25(気候変動枠組条約第25回締約国会議)のホスト国をブラジルが断念したのち、チリがホストとしてリードしたところからすべては始まります。そして誰が「ハイレベル気候行動チャンピオン」になるのかというのが1つの大きな関心事でした。このチャンピオンの役割は気候変動対策を推進することで、COP25までの歴代チャンピオンは皆公務員でした。チリにとっては非公共セクター出身の人がその役割を担うことが非常に重要でした。そして史上初の民間セクター出身のチャンピオンとして私が選ばれました。イギリスでも同様の考えが受け継がれ、もう1人のチャンピオンも民間出身のトッピング氏が選ばれています。
第二に、科学中心に考えることが求められていました。COP24開催の数か月前である2018年10月、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の専門家たちが可能な限りベストな選択肢は地球温暖化を1.5℃までに抑える、そして遅くとも2050年までに二酸化炭素排出量を正味ゼロにするという必要がある、というレポートを出しました。
それで2019年9月の事務総長サミットで、2050年までのネット・ゼロに向けて賛同したい団体や実現意志のある団体を集めたClimate Ambition Allianceを立ち上げました。当時は66か国がコミットしていました。でもこれは国だけじゃないんです。我々は企業、投資家、地方自治体、街などみんなで一緒に「ネット・ゼロby2050」に取り組むということを始めたんです。
(そしてその後、2019年12月のCOP25で、2050年から20年前倒した2030年までのネット・ゼロを目指す企業のイニシアティブが登場することになる)
マーキス氏:なぜ多種多様な企業がコミットすることが重要なのでしょうか。
ムニョス氏:気候変動問題解決は北半球が主導で進めるものから世界中のみんなで取り組むのだと、我々は考えを改めようとしています。それには多様なタイプの企業が同じターゲットを目指す必要がある。トッピング氏と共に立ち上げた#RaceToZeroキャンペーンは「TWOチャンピオン、ワンチーム」 を合言葉に、たくさんのメンバーを募り、今や1,100企業に至っています (最新は1397社、2020年12月現在) 。
私たちは中小企業向けに「SMEs Climate Hub」を ICC(国際商業会議所)、We Mean Business、Exponential Climate Action Roadmapと共に立ち上げました。 何千、いや何十万という世界中の中小企業が#RaceToZeroの活動を盛り上げ、コミットメントに参画するためのものです。
マーキス氏:企業と行政はどのように協働していくのでしょうか。
ムニョス氏:パリ条約では、企業が「問題の一部」から「解決の肝」になるという意味で企業の役割が大事だという認識がなされました。そしてこれがうまくいった場合に世界中の国でどういうことが起きるかというと、政府がパリ条約に批准すれば、企業側は「よし、我々の国はパリ条約に批准したから、気候変動がゲームのルールの中心なのだ」と言う。そして企業がパリ条約の具体的なアクションを実施していけば、政府もそれに合わせて規制を変えていく。これは「野心の循環」の発動ですね。
マーキス氏:コロナによる経済低迷の影響を受けていて、ゴールが何十年も先に設定されている気候変動対策よりも足元の業績をまず回復させようとしている企業などに対して、何と言いたいですか?
ムニョス氏:カルチャーを変えるためにはコミット数を増加させなければいけません。これは中小企業については甚大な余地があります。大企業は既に2050年までに「ネット・ゼロ」を宣言しています。彼らは中小企業に「いいよ一緒にやるよ、我々に任せて」と今すぐ言ってほしいんです。
賢いお金はすぐに動きます。ESG投資という側面だけでなく、気候変動リスクを考えないこと自体が投資リスクを高めるのだということを人々は認識します。コミットしている会社には資金が素早く集まります。コミットすることによって、金融業界からもその会社に投資することは良い選択肢だと認識されるようになるのです。
一方、コロナ禍ではエネルギー移行、ESGへの意識、自然環境をベースにした解決策の価値促進が進んだように見受けられます。ですから今から5年後にコロナ時代を振り返ってみたときに、2020年という年はかなりの軌道修正が加速したと見ることができると思います。企業はただビーチで見ているだけじゃなくて、この波に乗ることを強く勧めます。
マーキス氏:あなたの意欲をかき立てるような事例はありますか?
ムニョス氏:IPCCのレポート(「1.5℃特別報告書」)を開始して2年になりますが、物事は非常に早く変化しています。 しかしながら我々は二酸化炭素排出、エコシステムの再生、危機解決等の軌道修正をもっと推進していかなければなりません。金融セクターで見てみると、保険会社や資産運用会社、資産保有者などが5.1兆ドルをネット・ゼロにコミットすることになっています。リスクをどう測るかを学んだからこういうことが起きているわけです。
今や航空会社も2035年までにネット・ゼロを目指しています。さもなくば社会からビジネスをする権利を認められなくなってしまうとわかっているからです。イギリスや、アメリカのカルフォルニア州やカナダのケベック州といった州単位、ダイムラーといった一企業でさえも2030年より前に内燃機関(エンジン)の自動車を無くそうとしています。これは内燃機関で経済が回っていたような地域にとって非常に大きな意味を持ちます。
アメリカ大手の小売企業ウォルマートでさえ「リジェネラティブ」な企業(環境を再生しながら企業活動を行う、と宣言しています(こちらの記事参照)。2035年までにそうした企業になるというのはすごいことです。
もちろん、ユニリーバやダノン、m&mで有名なマース、カーギルなど、昔は叩かれていたが今は環境再生に取り組んでいるような大企業もあります。GEも脱化石戦略を迫られている。ネスレ、エリクソン、BT、イケア、テリア、ユニリーバなどの企業は、皆で取り組まなければならないからやるのだ、と言っています。そしてこのメッセージを各方面に発しているのです。
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この記事から、ムニョス氏は非常にポジティブで、民間出身チャンピオンとして様々なイニシアティブを積極的に推進していることがよくわかる。
コロナはあらゆる企業にとって厳しいビジネス環境を強いられたが、彼の言う通り、将来振り返ったときに様々な方面で良い加速が見られた、と言える2020年、2021年を目指したいものだ。