B Lab・イギリス支部の調査結果
全てのステークホルダーにとって良い会社である、ということの証明であるB Corp認証。環境・コミュニティのみならず、従業員・ガバナンス・顧客対応と5つの分野におけるアセスメントにより、一定の基準をクリアしないと認められないが、B Corpになるとどんな得があるのだろうか。
B Corp認証機関であるB Lab(Bラボ)のイギリス支部が独自に行った調査の結果を公表している。イギリスのB Corp取得企業のうち回答のあった102社と、イギリス政府の調査とを比較。B Corpの調査対象は従業員数250人未満の中小企業(イギリスでは99.9%がこの中小企業)である。
B Corpは成長気運が高い
2017~2019年の間、中小企業全体の年間成長率平均は3%、B Corp取得企業の平均は24%であった。また2017~2020年3月までの間、中小企業全体のヘッドカウントの伸びは0%だったのに対し、B Corp取得企業は8%である。また今後1年で売上やヘッドカウントが増加すると見込む企業は、中小企業全体では4割を切るのに対し、B Corp企業は6割近くに上る。但し、ここで注意すべきなのは、中小企業全体の調査結果が2019年に調査されている(発行は2020年6月)、つまりコロナ前なのに対し、B Corpの調査はコロナ禍の8月に実施されているという点だ。つまりコロナ禍におけるB Corpの回答が、コロナがまだ到来していない頃の一般企業の回答をも上回るという事実だ。前提が違うにせよ、コロナ禍でも「ソーシャル・グッド」を継続し、時として顧客やコミュニティをうまく巻き込むことで利益の創出と両立させながら突き進むB Corpだからこその結果かもしれない。
B Corpは人材獲得に有利
企業の魅力度を測る一つの指標として、離職率を見てみると、中小企業全体では16%に対し、B Corpは10%と低い。調査全文によると、過去1年間に従業員へ教育等の提供をした企業は、全体で49%に対し、B Corpは93%、従業員50人以上のB Corpは100%全ての企業が従業員への投資をしているのだ。
ダイバーシティへの取り組みも充実している。労働市場における女性参画は、日本と比較すればイギリスは良い状態にあり、職場における女性比率はB Corpで51%に対し、イギリス全体でも49%と高い割合となっている。民族等のマイノリティ採用についても、B Corpとイギリス全体は同じ13%と変わらない。一方で、経営層に少なくとも女性が1人いる割合については、全体で54%なのに対し、B Corpでは82%に上る(上記表の「女性の活躍」)。
給料については、数値で比較するとイギリス全体の平均が2200ポンド/月(約47万円)の対し、B Corpは3300ポンド/月(約31万円)である。これはセクターによる影響が大きく、B Corp取得企業が金融や専門性の高いサービス分野などに偏っていることにも起因しているが、逆にそうしたセクターにB Corp認定企業が多数存在するのは魅力的だ。
ちなみに顧客ロイヤルティ(継続利用意向)を示す、ネット・プロモーター・スコアを比較すると、企業全体平均が+32なのに対し、B Corp企業平均は+66である。但しB Corp企業平均のサンプル数が著しく小さいため、その差を断言するには至らないが、B Corp認定企業の信念が、顧客からのリテンション獲得に貢献していることは間違いないであろう。
B Corpはイノベーションに積極的
過去3年間の研究開発領域への投資が10万ポンド(約1400万円)以上だった割合は、中小企業全体で18%だったのに対し、B Corpではその倍に近い33%であった。イギリスでは研究開発減税制度が存在し、投資額の損金などが認められる。過去3年間にこれに応募したか受け取った企業の割合は、B Corpは45%であるのに対し、中小企業全体ではたったの6%であった。また革新的な商品やサービスを導入したと答える企業は、B Corpは84%に対し、中小企業全体では41%である(上記表の「革新的商品/サービスの開発」)。これらは結果論に過ぎないとはいえ、イノベーションに積極的な企業のコミュニティでポジティブなインパクトを受けないわけがないであろう。
B Corpはガバナンスがしっかりしている
「ESG」の「G」を具体的にどうすればいいのかわからない人も少なくないと思うが、そのガバナンスの成熟度を測る指標としてB Lab・イギリス支部は、きちんとした企業戦略が存在していて、それに関するパフォーマンスをトラッキングしてレビューする正式な仕組みが存在するかどうかを尋ねている。企業戦略が存在すると答えた企業は、中小企業全体で41%に対しB Corpは73%、トラッキングする仕組みが存在すると答えた企業は、全体52%に対しB Corp94%と大きく差がある。認定プロセスにおいてガバナンスの領域でチェック項目がたくさんあるため、B Corpは単に環境や社会にやさしいというだけではなく、企業としてしっかりとした体制で運営していることも証明するのだ。特に中小企業/スタートアップにおいて、創業間もない頃にガバナンスを整えるのはハードルの高いことだが、初めからB Corpの概念に則り設計してしまうことが効率的かもしれない。
B Corpはコミュニティ活動参画を重要視
これは十分納得の結果だが、ボランティアなどコミュニティや市民活動への参画について重要だと答える企業は、中小企業全体で50%なのに対し、B Corpは95%、従業員数50人以上の企業においては100%である。終業時間内のボランティアが認められる企業は、50人以上の企業で51%に対し、同規模のB Corpは97%と、その積極性が伺える。
その他、調査では資金調達面についても触れており、B Corpは他企業と同等の資金調達難易度であるとしている(但し10人未満の零細企業でやや苦戦の傾向あり)。
別のB Corp分析
イギリスの企業コンサルティング会社で、B Corp取得のサポートも行っているShoremountも、様々な研究結果をまとめている。
Shoremountは、実際のところ、B Corpについては研究はあまり多くないと指摘する。B Corpの数はまだまだ少なく(2021/1/9現在、3720社)、その歴史は10年を超えているとはいえ有意なパフォーマンス分析をするにはもう少し時間がかかる。さらに認定企業は中小企業で、財務データにアクセスしにくいことも研究数の少ない要因である。しかし現時点で判明しているのは、下記の通りだ。
(以下、記事より)
・2008年の金融危機の間、B Corp認定企業の収益成長率は50.48%
(Chen、Xiujian、Kelly、School of Management、ビンガムトン、2014年)
・B Corpは、大不況(Great Recession, 2007~2009年)の間および2006年~2011年の各年において、同等の規模の企業よりも高い収益成長率を示した。 (Chen、Xiujian、Kelly、School of Management、ビンガムトン、2014年)
・アメリカ・サンフランシスコ発の中小企業を分析するCircleUpの解析ツールHelioを使ってブランドのレベルを算出した結果によると、消費者むけ企業の全体平均はランク5だが、分析したB Corp認定企業の93%がその平均を上回っており、75%がランク9または10であった。 (Helios Machine Learning Research、CircleUp)
・B Corpの成長率は49%であるのに対し、同カテゴリーの他の企業では15%だった。(Dowling、2018)
・従業員への対応が「卓越した領域」(従来のCSRを超えた社会活動をしている)と認められるB Corpは、従業員の生産性が大幅に高い。 (Romi&Cook、テキサステック、2018)
・B Corpの1年および3年の売上成長率は、競合に比べて大幅に高くなっている。 (Romi&Cook、テキサステック、2018)
・消費者への対応が「卓越した領域」と認められるB Corpのは、売上高の伸びが非常に高い。 (Romi&Cook、テキサステック、2018)
パーパス・ドリブンな企業のパフォーマンス
B Corpではないが、同じくShoremountが、パーパス・ドリブンな企業、つまりある目的を源泉として活動を行う企業におけるパフォーマンスや市場の反応についての研究を、リンクと共に紹介している。
B Corpを目指す企業にとっても参考になるかもしれない。
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(以下、記事より。タイトル表現とリンクは記事から引用・一部加筆)
・4倍の収益成長 – Kotter, Forbes
・2.5倍の収益 – Hay Group Study
・3倍のマーケットリターン – Great Place To Work Poll
・CEOの93%「共感を追い求めるものを推薦するのは簡単だ」 – Business Solver
・ 企業価値成長率が30%高い – Global Innovation 1000
・従業員の離職率が50%減少 – Great Place To Work Poll
・病欠日数/年が2.3倍低い – Roger Herman, The Social Workplace
・3倍の生産性 – Great Place To Work Poll
・30%高い顧客満足度 – Forbes
・147%期待以上のパフォーマンス – Gallup
・93%が雇用主を誇りに思っている – Great Place To Work Poll
・飛び込みの求人応募が100%増える – Forbes
・事故が50%減少 – Roger Herman, The Social Workplace
・87%が共感をパフォーマンスに結び付ける – Businessolver
・70%がエンパワーメントを優先 – Society For Human Resource Management
・82%が企業文化が競争上の優位になりうると考える – Deloitte
・87%長期雇用を望んでいる – Great Place To Work Poll
・経営幹部の76%がサステイナビリティが株主価値に貢献すると考える – McKinsey
・ミレニアル世代の64%はCSR活動の無い企業に就職しない – Cone Communications
・ミレニアル世代の88%はESGの問題に従事できれば仕事はより充実したものになると考える – Cone Communications
・ミレニアル世代の83%は社会・環境問題に取り組む企業により忠誠的 – Cone Communications
・ミレニアル世代の76%が、就活時に企業の社会・環境問題への取り組み具合を考慮する – Cone Communications
・ミレニアル世代の89%は、実践的な社会・環境活動を期待している – Cone Communications
・87%の顧客がアドボカシーに基づいて製品を購入する – Forbes
・気候変動管理をすることでROE18%向上 – CDP
・気候変動管理をすることでROEのボラティリティが50%低下 – CDP
・気候変動管理をすることで21%増配 – CDP
・新しい市場への拡大に成功する可能性が50%向上 – Global Giving
・40%の消費者がパーパス・ドリブンな企業を求めている – Global Giving
・世界の66%の消費者がサステイナブルな商品にもっとお金を払う – YourCause
・50%の中小企業は、持続可能なビジネスによる費用便益を見ている-50% SEMEs see cost benefits from sustainable business – McKinsey