2006年7月5日、今から16年前にB Lab(Bラボ)が設立された。奇しくもそのさらに230年前の1776年にアメリカで独立宣言「Declaration of Independence」が行われたことを記念する日の翌日、企業同士が相互に働きかけながら新しい経済システムの構築を目指す「Declaration of Interdependece」を宣言したのであった。
5月には認定企業5000社突破という大きなマイルストーンを経て、また2020年以降たったの2年で、その数以上の約6000社が世界中からB Corp認証を申請しているという状況にあり、新たなステージに立ったと言えるであろう。また先月B Labは創設者からトップを交代し、異常な順番待ち、運営資金の更なる確保、大企業の取り込み、基準改定といった課題やタスクを抱えながら、更なる飛躍が期待される。
そんな状況に置いて、創設者3人が連名でエモーショナルなレターを、「Passing the Touch」と題して発表した。
(以下カッコ内はレターの内容)
「起業家・経営者・投資家としての私たち自身の経験から、世界を悩ませている多くの社会問題や環境問題の原因がビジネスにあること、そしてビジネスにはこれらの問題に規模で対峙することができるというすばらしい可能性があるということは明確です。私たちは、それを実現するための良いアイデアがあると信じる大胆さと純粋さを共有しています。
B Lab創設のきっかけは、これは今も変わりませんが、私たちが出会った何千人もの起業家たちが、単に稼ぐためだけでなく、世の中を変えるためにビジネスしていると考えているところに始まり、より良いビジネスを構築するのを手助けするようなムーブメントを作ることで、彼らの役に立ちたいと思っていました。そして、そうした起業家たちにとっても私たちにとってももっと重要なことは、経済システムを変えるために力を結集させることです。この構想は、「良い会社」の明確な定義と、その定義が信頼できる見本となるリーダーたちのコミュニティが必要だという認識から始まりました。そうした企業は、世界的なムーブメントの指揮者であり、行進者でもあります。」
最初のB Corpは創設から約1年後、カリフォルニア大学バークレー校で開催されたBALLE会議(現Common Future)で認定された。その数19社、振り返ってみれば当時B Corpというものが良くわからないままにも賛同してくれた企業である。そしてその年の末までの半年で81社がB Corpとして認定された。それから15年の時を経て、申請提出から審査開始まで1年待ちという、行列のできる認証になったB Corp、それだけ世界中の企業が、新しい経済・社会システムを形成する意味や実践方法がわかり、またそうした社会の実現に向けて世の中を動かす力を持つB Corpというコミュニティの一員になりたいと思っている証拠でもある。
「世界的なB Corpコミュニティの影響力により、ビジネスにおける成功を再定義しています。16年前、ビジネスに別の「パーパス」が必要だという考えは隅に追いやられ、むしろ異端的とさえ考えられていました。今では、世界中のビジネススクールが「マーケティング入門」で4P(Price・Place・Product・Promotion)に「Purpose(パーパス)」を加えた5Pを教えるようになりました。世界最大の投資家は上場企業に対してB Corpとなってステークホルダーガバナンスを実践するよう奨励しています。世界中のあらゆる地域において政治家やメディアが、良いビジネスとは何かを示す信頼できる例としてB Corpを挙げています。」
日本も例外ではない。岸田政権は「新しい資本主義」政策の1つとしてB Corp認証の法制度版であるパブリック・ベネフィット・コーポレーション(PBC)法の導入を検討、またメディアでも盛んにB Corpに関する情報が発信されている。
「B Corpムーブメントは、「B Corp帝国」を築くことではありません。認証は手段であり、目的ではありません。B Corpは、その信頼性とリーダーシップのおかげで、より良いビジネスを目指す様々な動きの中心に位置しています。B Corpに触発されて25万社以上の企業が自己採点アセスメント(BIA)を利用して自社のインパクトを測定・管理・改善しています。また自社の事業利益と社会の利益を一致させるための法的説明責任を果たすために、ベネフィット・コーポレーションの法的枠組みが活用されています。
B Corpムーブメントは、ステークホルダー資本主義の最も信頼できる例であり、すべてのステークホルダーに価値を提供し、健全な市場とすべての生命が依存する自然・社会システムを保護するために説明責任を負っています。B Corpムーブメントは、アクションでリードしています。B Corp企業は、労働者・地域社会・環境に直接的な影響を与え、気候変動に対するネットゼロ、不平等の削減、企業における人種的平等の構築を集団で約束し、受託者責任とコーポレートガバナンスを双方にアップグレードする法律、ベネフィットコーポレーション法をアメリカの州と世界中の国、合わせて52の地域で可決されたのもB Corp企業の働きかけによるものです。」
これまでの16年間でも数年おきにアセスメントの内容が変わり、今はバージョン6であるが、2020年末からじっくりと時間をかけて認証プロセスも含めた大改訂が検討されている。そのモチベーションの背景にあるのもB Corp認証企業たちのリーダーシップである。認証を得ることがゴールではなく、認証を受けたその先も、「良い会社」のお手本となり、世の中を良い方向へひっぱっていくことをB Labが期待している。
一方で、今後B Corp企業がリードしていくことが簡単な道のりではないということをレターの最後で締めくくっている。
「私たちは今、インクルーシブ・エコノミー(包括的な経済、様々なステークホルダーを考慮した経済)への前進が必然であるとは感じられない時代に生きています。もちろんB Corpムーブメントには事実すばらしい勢いがありますが、私たちを後戻りさせようとする強力な勢力が存在します。こうした勢力は私たちの社会に対する配慮の義務を感じておらず、邪魔をしたり、実行可能な代替案を提示したりする道徳的勇気に欠けています。この危機の時代において私たちがすべきことは、配慮と勇気を倍増させることです。
B Corpムーブメントは、すべての人々と地球のために成り立つ経済システムを求めるために、リスクを取って、リードし続けなければなりません。そのために私たちは存在するのです。」
現実を直視した上で、「B Corp帝国」という一部の人たちだけの繁栄のようなものを築くわけではないとはっきり断言する謙虚な姿勢と強い意志に、今後のB Corpの未来が期待される。