【新基準解説シリーズ③】気候変動対策

【新基準解説シリーズ③】気候変動対策

2025年以降のB Corp認証取得に必要なアセスメントの新基準についての解説シリーズ、3番目は危機意識の高まる気候変動対策。地球温暖化は特に今年、誰でも肌で感じてしまっているではないだろうか。

B Labの記事ではヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)の記事を参照しているが、2023年は観測史上最も暑い年となってしまった。数字としては産業革命前と比べて1.43℃だが、図で示すとその異常さが明らかだ。ECMWFのプレスリリースで発表されたのが下の月別に1940年代から時系列に示したグラフである。

B-Labが危機感を持っている通り-2023年は史上最も気温が高い
ECMWFのリリース(2023/11/10)より引用

過去にも温暖な年があったという見解もあるが、こちらも世界気象機関(WMO)が発表した、年ごとの平均気温をプロットすると近代の明らかな気温上昇が明らかである。

B-Labが懸念を抱く通り2023年は最も暑い年になった

WMOのリリース(2023/11/30)より引用

単に夏が暑い、冬が温暖であるということだけでなく、気温が高い故に異常な台風が発生して洪水や浸水などの被害に遭う場所があれば、旱魃で食糧の取れない場所もある。

国ごとの温室効果ガス削減目標「国が決定する貢献(NDC)」を全て足し合わせても、2030年までに2019年比で2%しか削減できず、この悲観的な結果は今後も続くと予想される。B Labはその危機的状況を受け止めている。

この危機に対処することは、単なる道徳的義務ではなく、ビジネス上必要不可欠な取り組みである。….
気候危機、生態系の健全性、人間の幸福がすべて相互に関連していること明白だ。気候危機による不可逆的な変化が社会を不安定にし、地球上に住みにくい状況をもたらせば、誰も繁栄することはできない。

その上で、全企業が①温室効果ガス排出量を毎年測定し、自社がどのくらい気候危機に影響を与えているかを把握し、②温度上昇を1.5℃未満に抑えるという科学的根拠に基づいて目標となる「北極星」を据え、③空虚な主張を避けるために、気候変動計画を作成し、目標に向かってどのように取り組むのか、誰と関わるのか、その取り組みが自社のビジネスモデルにどのような影響を与えるのかを説明する必要があるとしている。今回の新基準見直しに伴い全体的な目的の1つである、継続的な改善を強化するという点において、この気候変動対策で毎年GHGを算出し報告、可能であれば精度や網羅性を高めていくことが求められそうだ。つまり3年に1回の再認証プロセスは変わらないとしても、報告や改善は毎年取り組む必要があるということだ。また算定においてはGHGプロトコールに従うことがマストとされ、端的には環境省が提供しているグリーン・バリューチェーンプラットフォームを活用しながら、なんちゃって計算に終わらないようにする必要がある。

B Corp基準における発展

これまでも自己採点アセスメント・BIAの環境分野はもっぱら自社内の環境負荷を測定することがまず基本のきであり、Scope1・2・3を含めて測定しているかどうかを問われていた。昨今、企業が温室効果ガスを計測することが常識的になっており、B Labもアメリカ証券取引委員会(SEC)による気候関連開示基準案、EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)、中国の環境省にあたる生態環境部(MEE)の「企業環境情報の法定開示管理弁法」など、各国で義務化されている例を挙げている。

イギリスのシンクタンクEnergy and Climate Intelligence Unit (ECIU) やオックスフォード大学など4団体が共同で運営するプロジェクト「Net Zero Tracker」では、世界の国や企業のネットゼロに向けた動きをウォッチしているが、年次報告書「NET ZERO STOCKTAKE 2023」では、ネットゼロ宣言の企業の数は増えたものの、信用できる目標とアクションを示すことができている企業は、対象となっている世界の上場企業の中でも4%しかないという。B Labは科学的根拠に基づくネットゼロを推進していくには、Scope3も含めた排出量の算定と、少なくとも90%の削減(単なるオフセットではなく)が必要であるとし、誤解を招く主張や過度な約束を避けることが重要であるとしている。

新基準では、日本でもおなじみSBTi、ISOのネットゼロガイドライン非国家主体の排出量正味ゼロ・コミットメントに関するハイレベル専門家グループによるガイドライン、フランスのコンサル会社が手動で立ち上げたNet Zero Initiative10原則といったイニシアティブの概念が参照されているそうだ。これに照らし合わせ、下記の点に留意することが大事であるとしている。

・新興国の脱炭素化経済に向けて強く求められている財政支援を促進するためにも信頼の高い炭素クレジットを購入する

・ただし炭素クレジットは、企業の全体的な GHG 排出量削減にはカウントしない

・世界全体でのネットゼロに寄与する自社のネットゼロ目標を達成したと言う場合は、企業は残留排出量(まず削減をした後に残る排出量)に対して第三者認証があるなど信頼できるオフセットをしたことを証明する必要がある

また、生物多様性を意識し、自然に根ざした解決や、先住民の伝統的な知恵を活用することも推奨されている。Nature-based Solutions(NbS)は国際自然保護連合(IUCN)がガイドラインを提唱しており、日本のリエゾンオフィスと大正大学が共同で、NbSの事例集を紹介するウェブページが参考になる。

さらには特に大企業には政策提言に関する取り組み、「公正な移行」を推進するための計画、ビジネスやステークホルダー、社会への影響を測るシナリオ分析についても要件を課すようだ。

 

※ 本記事はB Labの新基準解説記事を参照して書かれたものです。引用文以外は個人の解釈であり、必ずしもB Lab本部の考えを公式に代弁するものではありません。