2020年末から着手されてきたB Corp認証プロセスの見直し、ついにそのドラフトが発表された。
これまで200問強のアセスメントに回答して80点のボーダーラインを超える、というものから、
10の必須項目
①8つのコアトピック(ガバナンス・従業員エンゲージメント・賃金・多様性・人権・気候変動対策・環境スチュワードシップ・コレクティブアクション)における2~4つの必須テーマへの準拠
②インパクトビジネスモデル(ビジネスそのものが環境や社会課題に対するもの)+改善目標1つ
or 従来型のBIA(アセスメント)に回答し改善目標最低5つ を改善し続ける
③リスク回避基準への準拠
に変更。ガバナンス・ワーカー・・・の5分野ではなく、必須要件10分野でPSG1・2・3、WE1のようなラベルのテーマでそれぞれ準拠が必要となり、印象がだいぶ変わる。
8つのコアトピックと必須要件
インパクトマネジメント
リスク基準
従来のBIA約200問の中で、コアな8項目に含まれない下記のようなトピックについては全て「インパクト・マネジメント」のカテゴリーに入り、企業が自助努力で改善することが期待されている。これらについて必須項目は設けられないが、目標を設定して進捗を報告することが再認証のプロセスの1つとなる。これまでBIAが企業にとって包括的な枠組みとして道しるべの役割を果たしてきたことを受け継ぎ、ツール自体は残るが、採点方法は抜本的に見直しが必要となり、これから設計されることになる。
コアトピックに含まれないその他のトピック
• ガバナンス体制
• 倫理・汚職
• 賞与の方針と実践
• 従業員の福利厚生
• (従業員・会社施設の)安全性
• 能力開発の方針と実践
• 地元/国内における調達と採用の方針
• 慈善事業と地域投資における方針と実践
• 顧客管理
• インパクトビジネスモデル
コアトピックにも再認証時に何の立証が必要かが定義され、また第三者機関の類似の認証や制度を導入している場合はそれが要件達成と認められるよう、現時点では「可能性」として記されている。
それぞれのトピックについて、詳細な要件も公表された。それを1つずつ紹介する。
パーパス&ステークホルダーガバナンス(PSG)
ミッションという言葉も度々使われているが、昨今の流れを受け従来のBIAになかった企業の存在価値をあらわす「パーパス」を用い、また「ステークホルダーガバナンス」を加えたテーマとなっている。B Labの定義するステークホルダーとは、GRIの定義に則り、取引先、市民社会組織、消費者、顧客、従業員、その他の労働者、政府、地域社会、NGO、株主・投資家、サプライヤー、労働組合、脆弱な立場にあるグループなど企業の活動の影響を受けるもしくは受ける可能性のある個人やグループを指し、それらすべての利害関係者の利益を考慮することがステークホルダーガバナンスである。これに限らず要件の中では地球といった声をあげられないものや将来世代なども含むよう指示がある。
BIAでは環境や社会課題の組織への組み込みの1つとして、社員への環境や社会に関する教育の実施などが含まれていたが、250名以上の企業については研修に限らず採用から退職後に至るまでライフサイクル全般にわたって企業のパーパスとつながったものでなくてはならない。また250名以上の企業のサステナブル関連の報告書が必須となった。
従業員エンゲージメント(WE)
DXや新型コロナの影響で従業員の期待値が変化していることに着目し、組織全体でパーパスが共有され社内にエンゲージメントや向上の活力があるべきということを重要視している。但し従業員のいない組織についてこの項目は要件遵守が不要となる。従業員のいる組織では満足度などのエンゲージメント指標を定期的に測定することが必須となった。
公正な賃金(FW)
2月時点でのドラフトでは「生活賃金」と表現されていたが、生活賃金の概念が広まっていない地域を考慮してか「公正な賃金」というトピック名になった。生活賃金とは、政府により制定される最低賃金とは違い、団体交渉や専門家の調査に基づいて設定されるもので、一般的に最低賃金より高い。最低賃金ではとても日常生活が送れない事実を反映し、本当にまともな生活ができる水準である。従来のBIAでは、企業の所在地において生活賃金のデータが無料で利用できない場合は「該当無し」と回答してスキップしていたが、250名以上の企業ではそのデータ購入が必須となっている。
多様性(JEDI)
そもそもこの認証プロセス改訂自体がインクルーシブであるように配慮しているとB Labがドラフト文書の冒頭で述べている。特にアフリカやアジア、南米を中心とする、いわゆる途上国にあたる「グローバルサウス」地域の人々や、有色人種・障がい者・LGBTQ+といったいわゆるマイノリティの人々を巻き込み意見を取り入れた。一部の人には膨大な時間のコミットに対しB Labから報酬さえも支払ったという。6月に日本で発売されたB Corpハンドブックはアメリカ本国で第2版となるものだが、そこには多様性に関する項目が多く加筆されているが、多様性の問題は専ら昨今のトピックであり、大きな改善が見られない重要課題でもある。多様性は正義(Justice)・公平性(Equity)・ダイバーシティ(Diversity)・包括性(Inclusion)、略してJEDIと表現されている。
従業員のいる企業は、従業員の属性に関する調査を実施することが義務付けられ、欧米企業では当たり前のように行われ、日本でも人的資本の情報開示が求められギャップの是正には現状把握が必須となってくると考えられる一方で、個人のアイデンティティに関してどのように効果的に把握し何をどう是正するかについての工夫はひとひねり必要であると考えられる。
ちなみに「アイデンティティ」とは、性別、性自認、人種、民族、性的指向、異なる能力、先住民や先住民族、移民、カースト、宗教、部族などをB Labが挙げているが、これに限らないとしている。LGBTQ+が意識され性自認についてはB Corp認証取得のための必須要件となっており、日本では認知が広まっているとはいえ、本人や周囲の人の混乱をきたすことなく尊厳を守る形でどのように調査するか、準備が求められる。
人権(HR)
人権問題は従来のBIAではピンポイントのフォーカスがあまりなく、昨今のグローバルサプライチェーン上の人権問題が脚光を浴びていることからもB Corpにマイナスの影響を取り除いてリスクを回避し、またプラスの貢献ができるよう設計し、この側面については再認証時の進捗報告も義務付けられている。
気候変動対策(CA)
地球温暖化に伴う気候変動や異常気象などの影響はサプライチェーン全体に及ぼし、さらに世界中の企業が打撃を受ける恐れがあり、危機感を持って取り組むべき課題の1つである。科学的根拠を重視しながら、既存のフレームワークなどを用いて対策を行うことが必須となっている。
循環型社会&環境スチュワードシップ(CES)
「環境スチュワードシップ」とは、環境に影響を与える行動をとるすべての人が共有する、環境に対する責任のことであるとB Labは定義している。事業活動やバリューチェーンにおける企業の影響を理解し、天然資源の効率的な利用と生態系の保護に取り組むことで示されるが、循環型経済を実現することがフレームワークの1つとなる。循環の原則を採用していれば、真の環境スチュワードシップを実証することになるという。従来のBIAで問われていたエネルギーや水の資料料や廃棄量などを把握し、それらを削減するための取り組みをしているか、それをサプライチェーンと共に取り組んでいるかという質問に該当する。
コレクティブアクション(CoA)
B Corp認証の特徴の1つとも言えるコレクティブアクション。B Corp企業同士もしくはあらゆるステークホルダーと共に、政策やビジネス界に対するアクションを起こすことが必須となった。またそのカテゴリーも明示され、2つ以上に参画しなければならない。ソートリーダーシップという言葉も含まれ、ビジネスの力を活かして世界を変えることの実践が強く求められている。
今後のタイムライン
以前の発表では2023年から段階的導入と発表されていたが、2023年内にテスト完了し、導入は2024年からと見込まれる。この間、11月15日までにフォードバックを受け付け、更なる審議を重ねて2023年からテストフェーズに入る。
B Corp認証企業、取得を目指している企業だけでなく、サステナビリティや社会正義の提唱者、学者、ジャーナリスト、学生、資金提供者、政策立案者など、幅広くフィードバックを募集している。
B Corp認証企業はこちらから、その他のステークホルダーはこちらから、回答できる。
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